ニカラグア事件

ニカラグア事件の概要

ニカラグア事件は、1984年4月9日にニカラグアが国際司法裁判所（ICJ）にアメリカを提訴した国際的な法的闘争を指す。この事件は、アメリカの軍事行動が国際法に違反しているとされ、特にアメリカが支援した反政府組織コントラによって引き起こされたとされるニカラグア市民への損害に焦点が当てられた。1986年6月27日、ICJはアメリカの行動が違法であるとの判決を下したものの、アメリカは賠償を拒否し、結果的にニカラグアはその請求を取り下げ、1991年に裁判は終了した。

背景

この事件の背後には、冷戦時代のアメリカの対中米政策がある。1959年のキューバ革命以降、アメリカは中米において親ソ連的な政権を排除しようとし、軍事介入をためらわなかった。1979年のニカラグア革命でソモサ政権が倒れ、新たに誕生したサンディニスタ政権は、アメリカからの支援を受けていたものの、共産主義国家との関係を深めたため、アメリカの敵視の対象となった。レーガン政権は反政府勢力コントラへの支援を強化し、ニカラグア内での軍事活動を拡大した。

ニカラグアの提訴

ニカラグアは1984年、アメリカの行動を「侵略」と指摘し、ICJに提訴する際に仮保全措置を求めた。ニカラグアはアメリカに対し、軍事的活動を即座に中止するように命じる仮保全措置を申請したが、アメリカはこれを否定した。ICJは1984年5月、アメリカに対し一時的措置を命じたものの、アメリカはその命令に従うことはなかった。これにより、両国間の緊張は一層高まり、紛争は法廷での審理へと進展した。

先決的判決

1984年11月、ICJはアメリカの管轄権に関する抗弁を却下し、審理に進む判断を下した。アメリカはICJの管轄を否定する抗弁を行ったが、ICJはニカラグアが示した友好通商航海条約に基づく管轄権を認めた。この判決は、国家間の武力紛争の合法性が法的に問われる稀有な事例となった。

本案判決

本案判決では、ICJはアメリカの行動が慣習国際法及び友好通商航海条約に違反しているとの見解を示した。アメリカによる行動、すなわちニカラグア市民への攻撃や港湾に敷設された機雷による損害が認定され、アメリカは賠償を命じられたが、アメリカはこれを拒否した。アメリカの行動は正当な自衛権の行使とは認められず、ICJは武力行使禁止の原則を強調した。

賠償とその後

ニカラグアは損害賠償を求めたが、アメリカはこれに応じなかった。最終的に1991年、ニカラグアはアメリカへの請求を取り下げ、ICJは裁判の終了を宣言した。この事件は、国際法における武力行使の合法性や国家の対立を解決するための法の重要性を考える上で重要なケースとなった。

まとめ

ニカラグア事件は、国際司法裁判所が武力行使について初めて本格的な判断を下した重要な事例とされる。しかし、アメリカの判決不履行という事態は、国際法の影響力や裁判所の機能性に対する疑問を呼び起こすことになった。アメリカの拒否権行使により、安保理での決議も否決され、国際社会において力の不均衡を明らかにした形となった。

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