倪敬

倪敬（げい けい）：民を想い、不正を糺した明代の官僚

倪敬（1416年 - 1458年）は、明代中期に活躍した官僚であり、字を汝敬、号を月楼と称しました。常州府無錫県を本貫とする倪敬は、その生涯を通して、民衆の利益を第一に考え、不正を厳しく糾弾する姿勢を貫きました。彼の清廉で勇敢な行動は、当時の官僚の模範となり、後世に語り継がれています。

立身と監察御史としての活躍

倪敬は、倪峻の孫として生まれました。1448年（正統13年）に科挙に合格し、進士となります。その後、監察御史に抜擢され、その才能を発揮し始めます。監察御史とは、官僚の不正を監視し、皇帝に報告する役職であり、高い正義感と勇気が求められました。

景泰帝の治世初期、直隷地方で大規模な飢饉が発生しました。倪敬は、景泰帝の命を受けて現地を視察し、民衆の苦境を目の当たりにします。彼は、民衆の負担を軽減するために、田租の免除を請願しますが、戸部はこれを許可しませんでした。しかし、倪敬は諦めずに再度上疏し、粘り強く交渉を重ね、ついに田租免除を認めさせました。彼の民衆を思う熱意と行動力は、この出来事からも明らかです。

さらに、倪敬は巡按山西として、地方の行政を監督しました。当時、穀物を納入することで任官を得られる制度がありましたが、この制度が腐敗の温床となっていることを憂慮した倪敬は、この制度の廃止を上奏しました。また、銀山の再開を求める意見に対しては、その弊害を指摘し、中止させました。彼の眼は常に、民衆の利益と国家の健全な発展に向けられていたのです。

権力に屈しない姿勢

鎮守内臣の戴細保が不正な横領を行っていた際、倪敬は、その罪状を一つ一つ列挙し、皇帝に奏聞しました。景泰帝は、戴細保を召還し、その仲間を逮捕して取り調べるよう倪敬に命じました。この事件からもわかるように、倪敬は権力に屈することなく、不正を徹底的に追及しました。彼の勇気と正義感は、当時の官吏たちに大きな影響を与えたことでしょう。

皇帝への諫言と左遷、そして復帰

1455年（景泰6年）7月、倪敬は同僚の御史たちと共に、遊興や仏僧のために官庫の金を使うだけでなく、龍舟を造らせたり、宮室の造営を増やすなど、贅沢を重ねる景泰帝を諫める上奏を行いました。しかし、景泰帝はこの諫言を快く思わず、御史16人を罷免または降格させ、倪敬も広西宜山県典史に左遷されてしまいました。しかし、彼の正義を貫く姿勢は、決して揺らぐことはありませんでした。

1457年（天順元年）、英宗が復辟すると、倪敬は祥符知県として復帰を果たします。その後、安遠侯柳溥にその器量を認められ、西征に随行し、南京都督府都事に転じました。彼の優れた能力と人柄は、多くの人に認められ、重用されることになりました。

倪敬の死と著作

1458年（天順2年）閏2月、倪敬は志半ばでこの世を去りました。享年43歳という若さでした。彼の遺した著書に『月楼集』があり、その中には彼の思想や行動が記されていると考えられます。倪敬の生涯は、民を想い、不正を憎み、権力に屈しない、清廉な官僚の姿を後世に伝える貴重な遺産と言えるでしょう。

倪敬の業績は、『明史』にも詳しく記録されています。彼の生き方は、現代を生きる私たちにも、多くの教訓と勇気を与えてくれます。常に民衆の側に立ち、不正を糾弾し、より良い社会の実現のために尽力する、そのような姿勢を私たちも持ち続けたいものです。

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