倶利伽羅江

倶利伽羅江（くりからごう）

倶利伽羅江は、南北朝時代に活躍した刀工、郷義弘によって作られたとされる短刀です。この刀は、戦国時代の武将である明智光秀が愛用した刀として、その名を知られています。しかし、残念ながら現在は焼失しており、その姿を直接見ることはできません。

概要

倶利伽羅江は、郷義弘によって作られたとされています。郷義弘は、通説では越中国（現在の富山県）の出身とされ、相州正宗の流れを汲む名工として知られています。正宗十哲の一人にも数えられ、その作刀は地刃ともに明るく冴え、非常に高い評価を受けています。しかし、郷義弘の在銘の刀は非常に少なく、本阿弥家が鑑定したものや伝承によるものを除き、その真作を見ることは稀であるため、「郷とお化けは見たことがない」と言われるほどです。郷義弘は、その本姓が大江氏であったため、一字をとって「江」と名乗ったという説もあります。

倶利伽羅江の名前の由来は、刀身の差裏（さしうら）に彫られた倶利伽羅龍に由来します。倶利伽羅龍とは、不動明王の化身である龍が剣に絡みついた姿を表したもので、龍神や不動明王の神通力を象徴するものとされています。この刀は、元々は越前国の戦国大名である朝倉家が所持していました。しかし、1573年に織田信長の侵攻により朝倉家が滅亡した際、多くの美術品が散逸する中で、朝倉家の腰物奉行がこの刀を密かに持ち出し、後に明智光秀が入手したとされています。

本能寺の変と倶利伽羅江

1582年の本能寺の変で織田信長を討った明智光秀は、一時的に天下を掌握しますが、すぐに豊臣秀吉に攻め込まれることになります。光秀は、居城である坂本城の守りを明智秀満に任せ、自身は山崎で秀吉軍と対峙しました。劣勢となった光秀軍は坂本城も包囲され、秀満は城内に保管されていた名刀を敵に渡すことを決意します。その際、不動国行や薬研藤四郎などの名刀は引き渡されましたが、倶利伽羅江は含まれていませんでした。秀満は、この刀が光秀にとって非常に大切であり、「主君と共に死ぬ」という強い意志を持っていました。

坂本城が落城寸前となった時、秀満は光秀の妻子を刺殺し、倶利伽羅江を手に取り、城門を開けて敵に自らの最期を見せつけました。そして、十文字に切腹し、火薬に火を放って自害したとされています。その後、坂本城は炎上し、倶利伽羅江もその炎に焼かれてしまいました。

作風

倶利伽羅江の刀身は、刃長28.2センチメートルで、平造りという形状をしています。指表には太い棒樋が彫られ、その中には倶利伽羅龍が彫られています。刃文は基本的に直刃ですが、剣先に向かうにつれて乱れ、互の目となります。帽子（切先部分の刃文）は尖り火焔風になっており、茎（なかご）には「江」の銘が刻まれていました。郷義弘の作刀には無銘のものが多い中で、銘が刻まれていることは非常に貴重です。

倶利伽羅江は、その美しい姿と明智光秀という戦国武将の愛刀であったという歴史的な背景から、多くの人々を魅了し続けています。焼失してしまったことは非常に残念ですが、その伝説は今もなお語り継がれています。



用語解説

刃長（はちょう）: 刃の部分の長さ。
平造り（ひらづくり）: 刀身の形状の一つで、鎬がないもの。
棒樋（ぼうひ）: 刀身の鎬地に掘られた溝。
刃文（はもん）: 刀身の焼き入れによって現れる模様。
直刃（すぐは）: まっすぐな刃文。
互の目（ぐのめ）: 丸い碁石が連続したような刃文。
帽子（ぼうし）: 切先部分の刃文。
茎（なかご）: 柄に収まる部分。
銘（めい）: 刀工が刀に入れた署名。

出典

甫喜山景雄『川角太閤記』 古書保存書屋、1880年。
刀剣春秋編集部『日本刀を嗜む』ナツメ社、2016年。

関連項目

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