傘寿まり子

書籍紹介: 『傘寿まり子』

『傘寿まり子』（さんじゅまりこ）は、おざわゆきが描く日本の漫画作品で、2016年12号から2021年7月号まで『BE・LOVE』に連載されました。本作は傘寿を迎えた80歳の女性作家を主人公にし、高齢者が直面する様々な問題を取り上げており、現代社会のリアリティを色濃く反映しています。

制作背景

著者の前作『あとかたの街』に影響を受け、高齢者に関する多くのインタビューから得た気づきをもとに、本作の執筆に至りました。おざわは「おばあちゃんを描きたい」という思いを抱き、世代が異なる高齢者たちの生き方を知り、そこから得た洞察を作品に盛り込みました。近年の高齢者像は、エッセイに見られるような達観した存在ではなく、年齢を重ねても変わらず人間的な感情を持ち続ける姿を描くことがテーマとなりました。

評価と受け入れ

主人公が80歳という設定は、作品に現実的な深みを与え、特に中高年層の読者から高い支持を得ています。この作品は、妥協しない生き方を求める高齢者たちを描写し、読者が彼らの感情や葛藤に共感する要素を取り入れることで、多くの読者の心をつかみました。

特に、主人公まり子の友人が新たな生活環境において孤独を感じる姿は、多くの共感を呼び起こしました。また、累計発行部数は発行からの約5年後に80万部を超え、2018年には第42回講談社漫画賞一般部門を受賞するなど、商業的にも成功を収めています。

あらすじ

本作の主人公、幸田まり子は80歳のベテラン作家。長年連れ添った夫を失い、息子夫婦や孫夫婦、ひ孫と共に生活する中で、自身が家族にとって邪魔者であると感じるようになります。傘寿を迎えた彼女は、独立を決意し、民間賃貸住宅を探し始めますが、高齢者という理由でなかなか入居を認められず、苦労します。それでも、まり子はネットカフェに身を寄せ、捨て猫のクロと一緒に生活を始めます。

まり子は過去の友人である八百坂親承と再会し、同棲を始めますが、交通事故をきっかけに二人の関係は悪化し、再びネットカフェ生活に戻ります。ここで出会ったオンラインゲーマーの三原しのとの関係が新たな展開をもたらし、互いに支え合っていく様子が描かれます。一方、まり子は自身の執筆活動に打ち込みながらも、雑誌の連載が打ち切られるという挫折を経験し、その後の道を模索することになります。

登場人物

• - 幸田まり子：主人公の80歳の小説家。
• - 八百坂親承：まり子の作家仲間の元夫で、再会後に同棲を始める。
• - 幸田こうじ：まり子の息子。
• - 幸田初子：こうじの妻。
• - 幸田ハヤトと彩花：まり子の孫夫婦。
• - 三原しの：オンラインゲームで出会った友人。
• - クロ：まり子が拾った捨て猫。

本作を通じて高齢者たちの人間らしさや不安、孤独を描き出すことで、読者に考えさせられる作品へと昇華しています。

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