債権者代位権

債権者代位権とは

債権者代位権とは、債権者が自己の債権を保全する必要がある場合に、債務者が有する権利を債務者に代わって行使できる権利を指します。民法423条に規定されており、債権の回収を確実にするための重要な制度です。

制度の背景

この制度は、フランス法の間接訴権を参考に、日本の民法に取り入れられました。債務者が自身の債権を回収しない場合、債権者は自己の債権を回収できなくなる可能性があります。そこで、債権者が債務者に代わって債権を行使できるようにすることで、債権者の利益を保護しています。

具体的な例

例えば、AさんがBさんに1000万円を貸し付けており、BさんはCさんに3000万円を貸し付けているとします。Bさんが資金繰りに困り倒産寸前の場合、AさんはBさんがCさんから3000万円を回収し、Aさんへの返済に充てて欲しいと考えます。しかし、Bさんは債権回収に消極的な場合、AさんはBさんに代わってCさんへの債権を直接行使することができます。これが債権者代位権の基本的な考え方です。

代位権行使の要件

債権者代位権を行使するためには、以下の要件を満たす必要があります。

1. 債権保全の必要性：債権者が自己の債権を保全する必要があること。具体的には、債務者が無資力（債務超過の状態）であることが必要です。2017年の改正民法で、この無資力要件が明文化されました。
2. 被保全債権と被代位権利の履行期の到来：原則として、債権者の債権と債務者の権利の履行期が到来している必要があります。ただし、保存行為の場合は、履行期前でも行使が可能です。
3. 被代位権利：債務者の一身に専属する権利や差押えが禁止されている権利は代位行使できません。
4. 被保全債権：債権者の債権が強制執行で実現できない場合は、代位権を行使できません。

代位権行使の範囲と効果

債権者が代位権を行使できる範囲は、自己の債権額に限られます。例えば、Aさんの債権額が1000万円で、BさんのCさんに対する債権が2000万円の場合、Aさんは2000万円のうち1000万円の範囲でしか行使できません。また、債権者は債務者への支払いを求めることができます。

債権者への支払・引渡し

債権者が代位権を行使して金銭の支払いや動産の引渡しを受ける場合、相手方（第三債務者）は債権者に直接支払いや引渡しを行うことができます。この場合、第三債務者が債権者に支払いを行うことで、債務者の債権は消滅します。

債権者が受け取った金銭や物は、原則として債務者に返還する必要があります。ただし、債権者は自己の債権と返還債務を相殺することができます。これにより、債権者は事実上、優先的に弁済を受けることが可能です。

債務者の権利

2017年の民法改正により、債権者が代位権を行使しても、債務者自身が債権を取り立てたり、処分したりする権利は制限されなくなりました。

相手方の抗弁

第三債務者は、債務者に対して主張できる抗弁を、債権者に対しても主張できます。

代位訴訟

債権者が代位権を行使して訴訟を起こした場合、債務者への訴訟告知が義務付けられています。債務者は訴訟に参加し、自己の権利を主張できます。

法的性質

債権者代位訴訟の法的性質については、訴訟担当説と固有適格説の対立があります。判例や通説は訴訟担当説を採用しています。

既判力

債権者代位訴訟の判決の効果は、債務者にも及びます。債権者が訴訟で敗訴した場合、債務者は同じ債権に基づいて再度請求することはできません。

訴訟告知

債権者代位訴訟では、債務者への訴訟告知が義務付けられています。債務者は訴訟に参加し、自己の権利を主張することができます。