僕のコダクローム
ポール・サイモンのソロキャリアにおける重要な楽曲の一つ、「僕のコダクローム（Kodachrome）」は、1973年にシングルとして発表され、同年リリースされたアルバム『ひとりごと』にも収録されています。シングル盤には「君のやさしさ」がB面としてカップリングされました。
この楽曲のタイトルである「コダクローム」は、かつてイーストマン・コダック社が製造していたカラーリバーサルフィルム（ポジフィルム）の名称に由来します。リバーサルフィルムは、撮影後に見たままの色彩や明暗で画像が得られるため、スライド映写などに適していました。一般的なカラーネガフィルムが明暗反転した陰画を得るのとは異なる仕組みです。楽曲発表当時、市場には1961年に登場した「コダクロームII」（第2世代）が存在していましたが、本作リリースの翌年である1974年には生産を終え、「コダクローム25」や「コダクローム64」といった第3世代へと引き継がれました。コダクロームシリーズは、写真フィルムの歴史において初期から続く「外式」と呼ばれる方式を唯一長く継続した製品として、多くの写真愛好家から支持されていました。
「僕のコダクローム」は、アメリカの音楽市場で大きな成功を収めました。1973年5月19日にビルボード誌の主要シングルチャート「ビルボードホット100」に初登場した後、わずか5週間でトップ10入りを果たし、最高位は2位を記録しました。また、同じビルボード誌の「アダルト・コンテンポラリー部門」でも最高2位にランクインしています。この時期のチャート上位には、トニー・オーランド＆ドーンの「幸せの黄色いリボン」やジョージ・ハリスンの「ギヴ・ミー・ラヴ」といったヒット曲が並んでいました。一方、イギリスではシングルとして発売されませんでした。これは、ラジオパーソナリティのケイシー・ケイサムによれば、英国放送協会（BBC）が商標名を含む楽曲の放送を避ける方針だったことによる可能性があるとされています。
楽曲タイトルがコダック社の商標であったことから、イーストマン・コダック社はアルバムにおいて「コダクローム」が同社の商標であることを明記し、曲名のすぐ後に登録商標マーク（®）を入れるよう求めました。興味深いことに、その後1990年代後半には、コダック社自身が「コダクローム」フィルムの宣伝にこの楽曲を使用しています。また、歌詞の中で「ナイコンカメラ」と発音される日本のニコン社は、ポール・サイモンが自社製品の発音を間違えていることを特に問題視しなかったと伝えられています。
この曲の歌詞は、青春期に学んだことへの皮肉や、モノクロームとカラーの世界観を対比させる独特の視点を持っています。特に物議を醸したのが冒頭のラインです。「When I think back on all the crap I learned in high school, it's a wonder I can think at all.（高校で学んだくだらないことを全て思い返すと、そもそも考えられているのが不思議なくらいだ）」という歌詞に含まれる“crap”という単語のために、一部のラジオ局では放送禁止扱いとなりました。また、ライブでの演奏においては、アルバム収録版と歌詞が一部異なることがあります。例えば、「...everything looks worse in black and white（モノクロだと全てが悪く見える）」という箇所が、ライブでは「...everything looks better in black and white（モノクロだと全てが良く見える）」と歌われるなど、表現が変化しています。さらに、シングルの音声には、フェイドアウトするエンディングの直前、インストゥルメンタル演奏が終わる前にポール・サイモンの「オーケイ」という声が小さく収録されています。ポール・サイモンは2008年のインタビューで、当初この曲に「ゴーイング・ホーム」という仮題を考えていたものの、ありきたりすぎると感じ、音の響きが似ており革新的な可能性を秘めた「コダクローム」というタイトルを思いついたと語っています。彼はこの曲の最も面白い点として、先述の冒頭の歌詞を挙げています。
楽曲のレコーディングには、数多くの名盤に参加していることで知られるマッスル・ショールズ・リズム・セクションが演奏を担当しています。発表後も楽曲は人気を保ち続け、1990年代にはスティーブ・バロン監督の映画『コーンヘッズ』（1993年）やマイケル・リッチー監督の映画『コップス＆ロバーソン』（1994年）といった作品で挿入歌として使用されました。
タイトルの元となったコダクロームフィルムは、デジタル写真への移行が進む中でその役割を終え、2009年6月にイーストマン・コダック社が年内の製造販売終了を発表しました。このニュースは日本でも報じられ、産経新聞の記事は「ポール・サイモンに歌われた名フィルムが退場」という見出しで、この楽曲に触れながらコダクロームの歴史に幕が下りたことを伝えています。また、歌詞に登場する「ニコン」カメラも、銀塩フィルム式一眼レフカメラの大半の機種が2006年1月までに生産・開発を終え、「事実上の撤退」と報じられました（ただし、2014年時点では一部の機種の製造販売は継続されていました）。このように、「僕のコダクローム」は、かつて写真文化を支えた象徴的な製品たちの歴史的な節目において、再びその存在が注目される楽曲となっています。
この楽曲のタイトルである「コダクローム」は、かつてイーストマン・コダック社が製造していたカラーリバーサルフィルム（ポジフィルム）の名称に由来します。リバーサルフィルムは、撮影後に見たままの色彩や明暗で画像が得られるため、スライド映写などに適していました。一般的なカラーネガフィルムが明暗反転した陰画を得るのとは異なる仕組みです。楽曲発表当時、市場には1961年に登場した「コダクロームII」（第2世代）が存在していましたが、本作リリースの翌年である1974年には生産を終え、「コダクローム25」や「コダクローム64」といった第3世代へと引き継がれました。コダクロームシリーズは、写真フィルムの歴史において初期から続く「外式」と呼ばれる方式を唯一長く継続した製品として、多くの写真愛好家から支持されていました。
「僕のコダクローム」は、アメリカの音楽市場で大きな成功を収めました。1973年5月19日にビルボード誌の主要シングルチャート「ビルボードホット100」に初登場した後、わずか5週間でトップ10入りを果たし、最高位は2位を記録しました。また、同じビルボード誌の「アダルト・コンテンポラリー部門」でも最高2位にランクインしています。この時期のチャート上位には、トニー・オーランド＆ドーンの「幸せの黄色いリボン」やジョージ・ハリスンの「ギヴ・ミー・ラヴ」といったヒット曲が並んでいました。一方、イギリスではシングルとして発売されませんでした。これは、ラジオパーソナリティのケイシー・ケイサムによれば、英国放送協会（BBC）が商標名を含む楽曲の放送を避ける方針だったことによる可能性があるとされています。
楽曲タイトルがコダック社の商標であったことから、イーストマン・コダック社はアルバムにおいて「コダクローム」が同社の商標であることを明記し、曲名のすぐ後に登録商標マーク（®）を入れるよう求めました。興味深いことに、その後1990年代後半には、コダック社自身が「コダクローム」フィルムの宣伝にこの楽曲を使用しています。また、歌詞の中で「ナイコンカメラ」と発音される日本のニコン社は、ポール・サイモンが自社製品の発音を間違えていることを特に問題視しなかったと伝えられています。
この曲の歌詞は、青春期に学んだことへの皮肉や、モノクロームとカラーの世界観を対比させる独特の視点を持っています。特に物議を醸したのが冒頭のラインです。「When I think back on all the crap I learned in high school, it's a wonder I can think at all.（高校で学んだくだらないことを全て思い返すと、そもそも考えられているのが不思議なくらいだ）」という歌詞に含まれる“crap”という単語のために、一部のラジオ局では放送禁止扱いとなりました。また、ライブでの演奏においては、アルバム収録版と歌詞が一部異なることがあります。例えば、「...everything looks worse in black and white（モノクロだと全てが悪く見える）」という箇所が、ライブでは「...everything looks better in black and white（モノクロだと全てが良く見える）」と歌われるなど、表現が変化しています。さらに、シングルの音声には、フェイドアウトするエンディングの直前、インストゥルメンタル演奏が終わる前にポール・サイモンの「オーケイ」という声が小さく収録されています。ポール・サイモンは2008年のインタビューで、当初この曲に「ゴーイング・ホーム」という仮題を考えていたものの、ありきたりすぎると感じ、音の響きが似ており革新的な可能性を秘めた「コダクローム」というタイトルを思いついたと語っています。彼はこの曲の最も面白い点として、先述の冒頭の歌詞を挙げています。
楽曲のレコーディングには、数多くの名盤に参加していることで知られるマッスル・ショールズ・リズム・セクションが演奏を担当しています。発表後も楽曲は人気を保ち続け、1990年代にはスティーブ・バロン監督の映画『コーンヘッズ』（1993年）やマイケル・リッチー監督の映画『コップス＆ロバーソン』（1994年）といった作品で挿入歌として使用されました。
タイトルの元となったコダクロームフィルムは、デジタル写真への移行が進む中でその役割を終え、2009年6月にイーストマン・コダック社が年内の製造販売終了を発表しました。このニュースは日本でも報じられ、産経新聞の記事は「ポール・サイモンに歌われた名フィルムが退場」という見出しで、この楽曲に触れながらコダクロームの歴史に幕が下りたことを伝えています。また、歌詞に登場する「ニコン」カメラも、銀塩フィルム式一眼レフカメラの大半の機種が2006年1月までに生産・開発を終え、「事実上の撤退」と報じられました（ただし、2014年時点では一部の機種の製造販売は継続されていました）。このように、「僕のコダクローム」は、かつて写真文化を支えた象徴的な製品たちの歴史的な節目において、再びその存在が注目される楽曲となっています。
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