僕は君の涙

僕は君の涙

『僕は君の涙』（ぼくはきみのなみだ）は、シンガーソングライターである太田裕美氏が作詞、作曲、そして歌唱を担当し、1998年6月から7月にかけてNHKの音楽番組『みんなのうた』で紹介された楽曲です。編曲は羽毛田丈史氏が手掛けています。

この楽曲の大きな特徴は、ある少女が流した一粒の涙の雫がたどる旅路を、水の自然な循環と状態変化に重ねて描いた点にあります。物語は、幼い少女が流した涙の雫から始まります。その小さな雫は、やがて空へと昇り、水蒸気となって雲の一部となります。そして、形を変えたその水は雨となり地上に降り注ぎます。降りた雨水は大地を潤しながら川の流れに加わり、遥かな道のりを経ていきます。旅の途中、この水は葡萄の木に吸い上げられ、時間をかけて熟成され、芳醇なワインへとその姿を変えていくのです。

物語のクライマックスでは、歳月を経て大人になったかつての少女が登場します。彼女は、あの時自分が流した涙が姿を変えたワインを口にする場面を迎えます。グラスを傾け、そのワインの味わいを感じながら、彼女は幼い日に流した一粒の涙と、それがたどった巡りの物語を静かに回想するのです。このように、個人の情感（涙）が自然現象（水の循環）と結びつき、長い時間を経て本人へと還っていくという、詩的で哲学的な世界観が描かれています。

『みんなのうた』では、通常の放送枠より長く、楽曲単体で5分間が使用されるロング楽曲として制作・放送されました。これにより、楽曲が持つゆったりとしたテンポと、壮大ながらも繊細な物語性をじっくりと表現することが可能となりました。

歌唱を担当した太田裕美氏にとって、この楽曲は『みんなのうた』への出演が特別な意味を持つものでした。1977年6月に放送された『あじさい』以来、実に21年ぶりの登場であり、さらに歌手活動を一時休止されていた時期を経て、活動を再開されてから初めて『みんなのうた』で歌声を披露した楽曲でもありました。作詞・作曲も自身で手掛けていることから、彼女の音楽活動における新たな一歩を象徴する一曲と言えるでしょう。

楽曲と共に流れる映像は、『みんなのうた』の映像を多数手掛けているアニメーション作家、南家こうじ氏が担当しました。歌詞の世界観を丁寧に読み解き、少女の成長の過程と、涙から始まった水が形を変えながら旅をする自然の営みを、温かく美しいアニメーションで描き出しています。このアニメーション映像は、2004年に販売された『みんなのうた』のDVD-BOX第11集に収録されています。

放送状況としては、1998年の初回放送以来、現在に至るまで『みんなのうた』のレギュラー枠での定時再放送は行われていません。しかしながら、番組の歴史を振り返る特別な機会に紹介されることはありました。例えば、2011年元旦に放送された番組50周年を記念する特別番組『愛されて50年 みんなのうた新春スペシャル』の中で、楽曲の一部が紹介された実績があります。

「僕は君の涙」は、一つの雫が辿る壮大な旅を通じて、人生の循環や時の流れ、そして感情が持つ不思議な力を静かに問いかける、示唆に富んだ楽曲と言えるでしょう。

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