優美な屍骸

優美な屍骸：想像を超える共同創造

「優美な屍骸」(フランス語: le cadavre exquis)とは、シュルレアリスム運動において生まれた、複数人で共同制作を行う独特な技法です。参加者それぞれが、他の参加者の制作内容を知ることなく、自身の担当部分のみを制作することで、予測不能で驚くべき作品を生み出します。絵画、詩、小説、脚本、音楽など、様々な芸術分野で用いられています。

この手法の面白さは、個々の作者の意図や想像を超えた、集団的無意識が形を成す点にあります。個々の創作は、全体像の一部としてしか存在せず、それらが組み合わさることで、全く新しい意味や解釈が生まれるのです。これは、シュルレアリスムが重視した「集団の意思」という思想と深く関わっています。

制作手順

具体的な制作手順は、作品の種類によって異なりますが、基本的な考え方は共通しています。例えば、4人で詩を作る場合、1人ずつ1行ずつを書き、それを繋ぎ合わせて完成させます。参加者は、自分が書く行の前後の行を見ることができません。絵画であれば、紙を折り畳み、見える部分だけを描き、最後に広げて全体を完成させる方法があります。この際、他の部分と繋がるように、つなぎ目を意識する必要があります。

名称の由来

この技法が「優美な屍骸」と呼ばれるようになったのは、ある共同制作での出来事がきっかけです。参加者たちが文章を制作中に、出来上がった文章を繋げてみたところ、“Le cadavre exquis boira le vin nouveau.”（優美な屍骸は新しい葡萄酒を飲むだろう）という、全く予想外の、そして魅力的な一文が誕生しました。この偶然の産物に感銘を受けた参加者たちは、この手法を「優美な屍骸」と名付けたのです。

芸術分野における応用例

「優美な屍骸」は、シュルレアリスムにとどまらず、現代の様々な芸術分野で活用されています。

アート:

『The Narrative Corpse』(1995): アート・スピーゲルマンとR. シコリアクが編集した、69人の漫画家による共同制作コミック。
『Breaking Boredom Project』(2008): エジプト・カイロで行われたグラフィックデザインプロジェクト。

映画・テレビ:

『Mysterious Object at Noon』(2000): アピチャートポン・ウィーラセータクン監督によるタイ映画。ドキュメンタリーとフィクションを融合した作品で、この手法を用いている。
『The Exquisite Corpse Project』(2000): 5人の脚本家による長編コメディ映画。各脚本家は、担当パートの前後5ページしか見ることができないという制約の中で脚本を執筆した。

音楽:

* 1940年代には、ジョン・ケージ、ヴァージル・トムソン、ヘンリー・カウエル、ルー・ハリソンといった作曲家たちがこの手法で楽曲を制作。後にロバート・ヒューズによってアレンジされ、パーティー・ピースとして発表された。

まとめ

「優美な屍骸」は、予期せぬ結果を生み出す、創造性豊かな共同制作技法です。個々の創造性が集積し、全体として新たな意味を持つ作品を生み出すそのプロセスは、現代においても、多くのアーティストたちに刺激を与え続けています。その偶然性と共同作業の面白さは、今後も様々な芸術分野で活用され、新たな表現を生み出すでしょう。

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