元尾道市長夫妻殺害事件

元尾道市長夫妻殺害事件

1980年（昭和55年）2月9日、広島県尾道市において、当時の前市長を務めていた佐藤勲氏と妻が自宅で殺害されるという痛ましい事件が発生しました。この事件は「元尾道市長夫妻殺害事件」として広く知られています。事件発生から15年が経過した1995年（平成7年）2月、公訴時効が成立し、事件は未解決のまま現在に至っています。

被害者である佐藤勲氏は、事件発生当時53歳。もともと医師として地域に貢献した後、尾道市議会議員を4期務めるなど政治活動にも積極的に関わっていました。1975年4月には尾道市長選挙に初当選し、市長としては、就任当時懸案であった市の累積赤字を早期に解消するなど、財政再建に手腕を発揮し一定の成果を上げていました。

しかし、二期目の当選を目指していた矢先の1979年2月、市立学校の増改築事業を巡る贈収賄事件に関与した疑いが浮上し、逮捕されるという事態に直面しました。これにより、同年4月に予定されていた市長選挙への立候補を断念せざるを得なくなりました。

事件が発生したのは、佐藤氏が収賄事件の被告人として裁判を抱えている最中のことです。1980年2月9日、尾道市浦崎町にある夫妻の自宅で、佐藤氏（当時53歳）と妻（当時45歳）は亡くなっているのが発見されました。夫婦は自宅の二階にある寝室で、首を切られるという極めて無残な方法で殺害されていました。当時、自宅には夫妻の次女（当時25歳）が同居していましたが、事件当日の朝、彼女が看護学校へ出かける際には、家の中に不審な様子は一切なかったとされています。

犯行現場となった佐藤氏宅の状況からは、事件の計画性が強くうかがえました。まず、外部との通信手段である電話線が切断されていたことが確認されました。さらに、自宅内には何者かが室内を物色したと思われる痕跡が残されていました。これらの状況から、犯人が事前に計画を立てて侵入した可能性が高いと見られました。

事件発生後、広島県警福山西警察署に捜査本部が設置されました。捜査当局は、多角的な視点から犯人の特定を目指しました。被害者である佐藤氏が医師であり、また市長という公職を経験した政治家であったことから、個人的な恨みや業務上のトラブルに起因する怨恨による犯行の可能性が検討されました。一方で、自宅内の物色状況からは、金品を目的とした強盗殺人の線も排除できませんでした。このように、動機の可能性が複数考えられたため、捜査線上に浮かんだ被疑者の範囲は広範に及び、絞り込みは困難を極めました。

捜査本部は、被害者である佐藤夫妻の遺影を掲げ、真相解明に向けて懸命な捜査を続けました。しかし、決定的な物的証拠や目撃情報は得られず、関係者への聞き込みや現場検証を重ねるものの、容疑者を特定するに至ることはできませんでした。捜査が長期化し、難航する中で、事件発生から15年が経過しました。そして、1995年2月、刑事訴訟法に定められた公訴時効が成立しました。

これにより、法的に犯人を追及することは不可能となり、元尾道市長夫妻殺害事件は、未解決事件として歴史に刻まれることとなりました。尊い二つの命が奪われたこの事件の真相は、現在も闇の中に閉ざされたままです。

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