元津事件

元津事件

元津事件（もとつじけん）は、1974年9月に兵庫県朝来郡の路上で、部落解放同盟のメンバーによって日本共産党の幹部が監禁され、暴行を受けた重大な事件です。この事件は、部落解放運動や差別問題に関する対立が激化した結果として位置付けられています。

背景

1970年代初頭、兵庫県南但馬地方には約6000人が住む被差別部落が22か所存在していました。1973年7月には、部落解放同盟南但馬支部連絡協議会（南但支連協）が発足し、各地域において組織が強化されていきました。同年10月には南但支連協の青年部も設立され、運動は活性化していきました。

しかし、1974年初めに兵庫県職員が差別的な内容の手紙を送ったことで、部落解放同盟は糾弾闘争を展開し、この問題に対する意識が高まりました。その際に、後に八鹿高校事件の主犯となるMが闘争委員会の委員長に就任し、以後、この地域での差別問題の摘発や行政への働きかけが盛んになりました。

教育現場の動き

部落解放同盟の活動の一環として、朝来中学校などでは解放研が設置されましたが、日本共産党の橋本哲朗はこの取り組みに反対し、教師たちに参加しないよう呼びかけました。橋本は解放研に批判的な意見を持つ講師を招くなどし、部落解放同盟の方針を真正面から対抗しました。このことが、部落解放同盟と共産党員との間に深刻な対立を生み出しました。

1974年の夏、朝来中学校で行われた確認・糾弾会に対し、橋本はビラを配布し、解放同盟の行動を批判する内容を広めました。このビラには「教師をリンチする朝来中学校内確認会」という強い表現が使われ、手段の過激さが問題視されました。

事件の発端

1974年9月9日、部落解放同盟のメンバー40名から50名が橋本らを囲み、約10時間にわたり監禁しました。この間、暴言や暴力が加えられ、橋本にはその後も健康に障害が残る結果となりました。元津事件は「第一次朝来事件」と呼ばれ、部落解放運動内部での対立が引き起こした激しい衝突の象徴となりました。

橋本宅包囲事件

さらに、部落解放同盟のメンバーは、橋本宅を包囲する事件を引き起こしました。10月20日から始まったこの包囲は、最大で2000人に達し、強い言葉での怒号やアジテーションが続けられました。この事件も「第二次朝来事件」と名付けられ、橋本家は長時間にわたって不法に監禁される結果に至りました。

法的措置

その後、橋本を含む10名が解放同盟の幹部たちを刑事告訴し、損害賠償を求める民事訴訟も起こしました。この動きは、部落解放同盟に対する対抗措置として注目されました。

裁判所は、部落解放同盟の抗議活動についてもその手法には過剰な部分があったと指摘しました。1983年、兵庫県の裁判所は、両者に対して有罪判決を下し、執行猶予のついた懲役刑が言い渡されました。

1985年には民事判決も下され、被告に対して金銭的な支払いが命じられる結果となりました。事件は部落解放運動と共産党との激しい対立の象徴として、現在でも歴史的な意義を持つものとなっています。

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