先行的恩寵
先行的恩寵（Prevenient Grace）
先行的恩寵は、救いの恵みを受ける前段階で神が人々に与える恩寵を表します。この概念は、4世紀の神学者アウグスティヌスの教えにも基づいており、救いは神の一方的な恵みによると考えられています。しかし重要なのは、誰もが救いの経験に至る前にも、神の恵みが等しく注がれているという点です。この恩寵は、神に背く罪を犯している人にも及ぶのです。
人間は「死ぬべし」と宣告されている罪ある存在でありながら、この地上で生きていること自体が神の恵みとされています。実際に、私たちの生活を支えるために必要な衣食住や社会秩序、さらにはそれを維持するための政治や法律、警察なども、先行的恩寵の一部と見なされています。これら全ては、神が与える恵みの表れであり、私たちの生活の基盤とされています。
先行的恩寵は、特に人が神の救いへと導く様々な摂理的要因の一環として強調されます。この考え方は、ウエスレアン・アルミニアン神学の特徴であり、神の救いに至るための道を示すものとされています。ウエスレアン神学では、恩寵が広く人々に与えられているとして、その重要性を認識しています。
対照的に、改革派神学では恩寵を「一般恩寵」と「選びの恩寵」に分けています。つまり、一般恩寵はすべての人々に与えられるものである一方、選びの恩寵は特定の人々に対して神が救いに選ぶものとされています。このため、一般恩寵を受けていても、選ばれない限り救いには至らないとされます。この考え方は、ドルト信仰基準に見られる「限定贖罪説」にも表れています。
このように、先行的恩寵は、救いの準備としての役割を果たし、全ての人々に対する神の深い愛の表現と理解できます。先行的恩寵の考え方は、様々な神学的伝統において異なる解釈が存在し、私たちが救いについて考える際に重要な視点を提供しています。
関連項目
参考文献
もう一度検索
【記事の利用について】
タイトルと記事文章は、記事のあるページにリンクを張っていただければ、無料で利用できます。
※画像は、利用できませんのでご注意ください。
【リンクついて】
リンクフリーです。