光熱変換分光法

光熱変換分光法（Photothermal Spectroscopy: PTS）

光熱変換分光法（PTS）は、物質が光を吸収した際に発生する熱エネルギーを利用する分光法です。具体的には、光を吸収した後に生じる熱波、音響波、弾性波などの光熱変換効果によって生じる熱信号を検出し、物質の光熱変換スペクトルを得て分析を行います。

概要

この手法は、試料を加熱することで生じる熱信号を検出して分析します。光熱変換分光法は、以下のような優れた特徴を備えています。

前処理不要: 試料の前処理がほとんど必要ありません。
簡便性: 比較的簡便な操作で測定が可能です。
その場測定: 試料を特別な環境に移すことなく、その場で測定できます。
深さ方向分析: 試料の深さ方向の情報を得ることができます。

これらの特徴から、光熱変換分光法は様々な分野で応用されています。

主な光熱変換分光法

光音響分光法 (Photoacoustic Spectroscopy)

光音響分光法は、熱による変化を音波の形で捉える手法です。試料に光を照射し、光吸収によって発生した熱が音波として伝播する現象を利用します。この音波を検出することで、試料の光吸収特性を評価します。

熱レンズ効果分光法

熱レンズ分光法は、熱的変化をレーザービームを用いて光学的に検出する手法です。測定対象にレーザー光を照射すると、光吸収により試料が局所的に加熱され、膨張によって密度が低下し、屈折率が変化します。この屈折率の変化により、レーザー光が通過する部分にあたかも凹レンズが生じたかのような効果（熱レンズ効果）が発現します。この現象を利用して、試料の光吸収特性を分析します。

光熱偏向法

光励起された試料が、非発光遷移により基底状態に戻る際に発生する熱を、試料自身または試料に接する媒質の屈折率変化から測定する手法です。発光遷移を捉える光ルミネッセンス法とは相補的な関係にあります。

その他の光熱変換分光法

熱反射率測定法: 試料の反射率を測定し、そこから熱的な情報を検出します。
焦電効果測定法: 焦電効果を利用して熱的な変化を検出します。
熱光回折法: 光と熱の相互作用によって生じる回折現象を利用して熱的な情報を検出します。

関連事項

光熱変換分光法は、他の分光法とも密接に関連しています。

赤外分光法
ラマン分光法
熱赤外分光法
近赤外線分光法
テラヘルツ分光法

これらの分光法と組み合わせることで、より詳細な物質の分析が可能になります。

参考文献

川口康, 伊田泰一郎, 川内聡子 ほか、「光熱変換分光法とその応用光熱変換分光法とその応用（日本分光学会測定法シリーズ）」 『光熱変換分光法とその応用』 1997 ,NAID 20001086542, 学会出版センター
内山一美、「光熱変換分光法の平板型クロマトグラフィーへの応用」 『分析化学』 1999年 48巻 8号 p.737-749, doi:10.2116/bunsekikagaku.48.737, 日本分析化学会
和田森直, 加藤和夫, 松田甚一. "光熱変換分光法による生体情報計測." 生体・生理工学シンポジウム論文集 17 (2002): 409-410.
片山幹郎、「熱レンズ分光法」 『レーザー化学 II』 (1985): 250-272, NAID 10015110887.
* 北森武彦、「熱レンズ分光法」 『光熱変換分光法とその応用』 (1997), NAID 10015110887.

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