入倉孝次郎

入倉 孝次郎

入倉 孝次郎（いりくら こうじろう、1940年8月22日 - ）氏は、日本の地震学者および地球科学者であり、京都大学名誉教授です。中華民国青島市で生まれ、京都大学で物理学および地球物理学を修めました。1983年に京都大学から理学博士号を取得しています。

氏の最も重要な業績は、地震動の評価と予測に関する画期的な手法の開発です。一つは経験的グリーン関数法です。これは、規模の比較的小さい地震が発生した際に観測された地震波の記録を基に、数値計算を用いてより大きな地震が発生した場合の強い揺れ（強震動）を推定・再現する手法です。この方法は、実際の観測データを用いることで、地下構造などの影響をより現実的に考慮できる利点があります。

もう一つは、将来予測される大地震による地面の揺れを精度良く見積もるための体系的な手法である「強震動予測レシピ」（通称：入倉レシピ）の考案です。このレシピは、経験的グリーン関数法などの科学的知見に基づき、地震が発生した場合の震源断層や地下構造などを考慮して、地表での最大速度や応答スペクトルといった強震動の特性を予測する手順を定めています。この入倉レシピは、国や地方自治体が地震ハザードマップを作成する際の標準的な手法として広く採用されており、建築物の耐震設計や地域ごとの地震リスク評価、さらには防災計画策定の基盤として、日本の地震防災対策に不可欠な役割を果たしています。

略歴と活動

入倉氏は1963年に京都大学理学部を卒業後、大学院に進み、1968年に京都大学防災研究所の助手として研究者としてのキャリアをスタートさせました。その後、助教授、教授と昇任し、長年にわたり京都大学で地震動研究を推進しました。2001年から2003年には同研究所の所長を務め、研究組織の運営にも尽力しました。2004年に京都大学を定年退職し、名誉教授の称号を得ました。その後、京都大学の理事・副学長、愛知工業大学地域防災研究センター客員教授などを歴任しています。

学術研究活動に加え、入倉氏は国内外の多くの機関で教育・研究交流にも貢献しました。南カリフォルニア大学やミラノ工科大学での客員教授、メキシコ国立防災センターでの専門家派遣など、国際的な場での活動も活発に行いました。

また、日本の地震学・地震工学分野の発展と社会への普及に指導的な役割を果たしました。日本地震学会会長、日本地震工学会会長、日本活断層学会副会長などを歴任し、関連学会の活動を牽引しました。さらに、中央防災会議専門委員、文部科学省地震調査研究推進本部の委員、原子力安全委員会専門委員など、国の重要な防災・地震調査研究に関わる委員会の委員も多数務め、専門家としての立場から政策提言や評価を行いました。

受賞歴

入倉氏は、その卓越した研究成果と地震防災への貢献により、数多くの賞を受賞しています。主なものとして、スロバキア学士院からの地震学100年記念メダル（2003年）、文部科学大臣研究功績者表彰（2004年）、内閣府防災功労者防災担当大臣表彰（2006年）、経済産業省原子力安全功労者表彰（2007年）、安全功労者内閣総理大臣表彰（2008年）、防災功労者内閣総理大臣表彰（2008年）、Bruce A. Balt Medal（2011年）などがあります。2019年春には、瑞宝中綬章を受章し、長年の功績が国家によって顕彰されました。

入倉孝次郎氏が開発した強震動の予測・評価手法は、地震による被害を軽減するための防災対策において、科学的根拠を提供する上で極めて重要な基盤となっています。氏の貢献は、学術的な進歩に留まらず、社会の安全確保という観点からも高く評価されています。

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