入格

入格：空間への移動を表す文法上の格

入格とは、ある場所の中への移動や到達を表す文法上の格です。日本語には直接対応する格がありませんが、英語の「into」や「within」といった前置詞が持つ意味合いと近い概念と言えるでしょう。主にウラル語族の言語、特にフィンランド語やハンガリー語で明確な形態として存在し、広く「処格」と呼ばれる格の一種に分類されます。「家」を例にとると、単なる「家」ではなく「家の中へ」という、空間的な移動や包含を意味する点が特徴です。

ウラル語族における入格

フィンランド語、ハンガリー語、エストニア語など、ウラル語族の多くの言語では、入格は独立した格として活用されます。

ハンガリー語: ház（家）→ házba（家の中へ）
エストニア語: maja（家）→ majasse または majja（家の中へ）
フィンランド語: talo（家）→ taloon（家の中へ）

これらの例からも分かるように、各言語で異なる語尾変化を伴いますが、いずれも「～の中へ」という空間的な移動を明確に示しています。

インドヨーロッパ語族における入格の痕跡

驚くべきことに、インドヨーロッパ語族にも入格の痕跡が残っています。古いリトアニア語には入格の形態が存在したことが知られており、現代標準リトアニア語では廃れてしまいましたが、一部の方言などにその名残を見ることができます。これは、言語進化の過程で入格が消失していく事例として、言語学上非常に興味深い点です。

フィンランド語における入格の活用

フィンランド語の入格は、特にその活用規則が複雑で、語尾変化に注目する必要があります。フィンランド語の入格形は常に強階程であり、語尾変化は主に語幹の最後の母音と、それに続く語尾によって決まります。

1. 語尾が母音の場合:

語尾が母音（-a, -e, -i, -o, -u, -y）の場合は、その母音の前に「-n」が付加されます。

talo（家）+ -oon = taloon（家の中へ）
katu（通り）+ -uun = katuun（通りの中へ）
koti（家）+ -iin = kotiin（家の中へ）

2. 語尾が子音の場合:

語尾が子音の場合、その子音が脱落し、直前の母音に「-seen」が付加されます。

kaunis（美しい）+ -seen = kauniiseen（美しいものの中へ）

3. 主格形が弱階程の場合:

主格形が弱階程の場合は、まず強階程に変換してから、上記の方法で入格形を作ります。子音脱落も同様です。

liite（付録、弱階程）→ liite（付録、強階程）+ -eseen = liitteeseen（付録の中へ）
hidas（遅い、弱階程）→ hidas（遅い、強階程）-s + -a + seen = hitaaseen（遅いものの中へ）
kangas（問題、弱階程）→ kangas（問題、強階程）-s + -a + seen = kankaaseen（問題の中へ）

これらの規則は複雑に見えるかもしれませんが、フィンランド語の文法体系を理解する上で非常に重要な要素です。入格の活用は、フィンランド語の豊かな表現力の一端を示していると言えるでしょう。

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