全員が練り歩いた

ジャン＝リュック・ゴダール監督による短編映画『全員が練り歩いた』(On s'est tous défilé)は、1987年という時代を反映した、実験的な映像作品として知られています。この作品は、パリを拠点とする著名なファッションデザイナーデュオ、マリテ+フランソワ・ジルボーとの協働によって制作されました。

映画は、ファッションショーのような場面を捉えた映像から構成されています。モデルたちの動きは、スローモーションやリワインドといった技法によって、独特の時間感覚が作り出されています。また、モンタージュの手法も駆使され、視覚的な効果を高めています。さらに、ゴダール自身のナレーションが、映像と複雑に絡み合い、観る者の解釈を促す構成となっています。

音楽もまた、この映画の重要な構成要素の一つです。アルテュール・オネゲル、ソニー・ロリンズ、レナード・コーエンといった、異なる時代やジャンルの作曲家たちの楽曲が使用されています。クラシック音楽の巨匠、モーツァルトや、人気歌手バーブラ・ストライサンドの作品も含まれており、音楽の多様性が印象的です。これらの音楽が、映像の雰囲気をさらに複雑に、そして豊かに彩っています。

ゴダールは、この作品以外にも、マリテ+フランソワ・ジルボーとのコラボレーションで複数の映像作品を制作しています。1987年から1988年にかけては、『CLOSED』と題された、20秒から30秒程度の短いクリップ17本からなるシリーズを制作しました。そして、1990年には『Métamorphojean』という、同様に短いクリップ5本からなるシリーズを制作しています。これら短尺の映像作品群は、ゴダール独特の映像表現と、ファッションという現代的な要素が見事に融合した作品群と言えるでしょう。

『全員が練り歩いた』は、2006年にポンピドゥー・センターで開催されたゴダール展で、マリテ+フランソワ・ジルボーによってリマスタリングされたベータカムで上映されました。これは、この作品が、時を経てもなお、高い評価を受け、現代においても鑑賞に値する作品であることを示しています。

スタッフ、キャスト陣も、この映画の質を高める上で重要な役割を果たしました。ゴダール自身は、監督、脚本、編集、ナレーションと、多岐にわたる役割を担っています。撮影はカロリーヌ・シャンプティエ、録音はフランソワ・ミュジーが担当し、俳優陣にはフランソワ・ジルボーとマリテ・ジルボー夫妻、そして複数のモデルが出演しています。これらのスタッフ、キャストの協働によって、ゴダールのビジョンが、スクリーン上に鮮やかに再現されているのです。

この映画は、単なるファッション映像にとどまらず、ゴダール独自の視点と実験的な映像表現によって、観る者に多様な解釈を促す、高度な映像作品と言えるでしょう。ゴダールの他の作品と比較検討することで、彼の映画作家のキャリアにおける、この作品の位置づけや、その意義をより深く理解することができるでしょう。また、マリテ+フランソワ・ジルボーとのコラボレーションという側面からも、この作品は、ファッションと映像芸術の融合という、新たな視点を提示していると言えるでしょう。

もう一度検索