全国指導者ローゼンベルク特捜隊

全国指導者ローゼンベルク特捜隊(ERR)：ナチス政権下の美術品略奪と文化遺産破壊

第二次世界大戦中、ナチス・ドイツは、膨大な美術品や文化遺産を略奪しました。その中心的な役割を果たした組織の一つが、全国指導者アルフレート・ローゼンベルクの指揮下にあった「全国指導者ローゼンベルク特捜隊(Einsatzstab Reichsleiter Rosenberg、ERR)」です。ERRは、当初はナチス・イデオロギーに反する思想を持つとされたユダヤ人、フリーメイソン、共産主義者らの文献収集を目的として設立されましたが、活動の過程で美術品略奪が主要な任務へと変化していきました。

ERRの設立と目的

ERR設立の背景には、ローゼンベルクが構想した「高等学院」というナチス研究機関の設立計画がありました。この機関の運営には、敵対勢力の文献資料の収集が不可欠であるとされたのです。しかしながら、占領地での活動を通して、美術品や文化遺産が大量に発見されるようになると、ERRの活動の中心は文献収集から美術品等の略奪へと移行していきます。

1940年7月、ERR在仏司令部がパリに設置され、ベルリンにも中央事務局が置かれました。ERRは国家機関ではなく、ナチ党の組織として運営され、アドルフ・ヒトラーからの直接の命令の下、占領地における貴重な文化遺産の略奪を組織的に行いました。この略奪行為は、ヒトラーの直接命令、およびヴィルヘルム・カイテル元帥からの指示に基づいて実施され、その規模は莫大なものとなりました。

ゲーリングの関与と権力闘争

ローゼンベルクは、ナチ党内における権力闘争においては、常に不利な立場にありました。そのため、ERRによる略奪活動は、空軍総司令ヘルマン・ゲーリングの支援なしには成功しなかったでしょう。ゲーリングは、占領地における略奪に協力し、空軍や鉄道、さらには党組織などを動員してERRを支援しました。

しかし、ゲーリング自身も略奪品に強い関心を示しており、ERR内部に工作員を送り込み、特定の美術品を自分のコレクションに回したりしていました。ERR隊員の中には、ローゼンベルクよりもゲーリングの意向を優先して行動する者も少なくありませんでした。特に、パリの特務幕僚部では、ゲーリングからの信頼が厚い美術史家や写真家らが多数活躍し、ゲーリングの意向に沿った略奪活動が展開されていました。

ERRの組織構造と活動地域

ERRは、ベルリン中央事務所を頂点とし、各地に支所や特務幕僚部を展開していました。特務幕僚部は、音楽、造形芸術、図書館、考古学など、専門分野ごとに設置され、効率的な略奪活動を可能にしています。

ERRの活動地域は、フランス、ベネルクス三国、ポーランド、バルト三国、ギリシャ、イタリアなど、ナチス・ドイツの占領地域に及びました。東部戦線では、親衛隊などの組織とも協力、あるいは競合しながら、美術品や文献資料の略奪・破壊を行っていました。多くの場合、略奪された文化財の所有者は、強制収容所に送られるなど、凄惨な運命を辿りました。

在仏ERRと東欧ERR

在仏ERRは、フランス各地の美術館、博物館、図書館などを襲撃し、大量の美術品を略奪しました。略奪された美術品は、一旦ジュ・ド・ポーム国立美術館に集められ、選別された後、ドイツへ送られました。東欧におけるERRの活動は、バルバロッサ作戦の発動と同時に開始され、オストラント、中央、ウクライナという3つの主要行動隊が組織されました。これらの行動隊は、バルト三国、ベラルーシ、ウクライナなどを担当地域として、美術品や文献の略奪を行いました。

戦後の返還問題

終戦後、連合国は、ナチス・ドイツによる美術品略奪の調査に乗り出し、略奪品の返還作業を開始しました。アメリカ軍が設立した「ミュンヘン中央美術品収集所」は、膨大な数の略奪品を回収し、返還を行いました。しかし、全ての略奪品の行方が明らかになったわけではなく、現在でも返還問題に取り組む団体や機関があります。ERRの活動は、第二次世界大戦におけるナチス・ドイツの蛮行の象徴として、現在も記憶され続けています。

参考文献

本文中で言及した事柄の詳細については、以下の参考文献を参照ください。（参考文献リストは省略）

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