全量炭素カラム観測ネットワーク

全量炭素カラム観測ネットワーク（TCCON）

全量炭素カラム観測ネットワーク（Total Carbon Column Observing Network、略称：TCCON）は、地球の大気中に含まれる二酸化炭素（CO₂）やメタン（CH₄）といった主要な温室効果ガス、さらには一酸化炭素（CO）、一酸化二窒素（N₂O）を含む様々な微量成分の濃度を正確に計測するための国際的な観測網です。

設立とその広がり

このネットワークは、2004年にアメリカ合衆国ウィスコンシン州のパークフォールズに最初の観測装置が設置されたことから始まりました。その後、観測網は着実に拡大し、現在では世界各地に設置された19台の観測装置によって運用されています。

目的と科学的意義

TCCONの主たる目的は、地球上の炭素が、大気、陸域の生態系、そして海洋の間をどのように移動しているか、つまり炭素循環の詳細を研究することにあります。大気中に存在する炭素の総量を高精度に測定することで、炭素の流れやその収支に関する理解を深めることを目指しています。TCCONによって得られる測定データは、炭素循環のモデル精度向上や、都市部などにおける温室効果ガスの排出実態の把握といった科学的な知見を大きく進展させています。

また、TCCONは人工衛星による大気観測ミッションを支援する上で極めて重要な役割を担っています。地上の固定地点で高精度な測定を行うことにより、衛星が宇宙から観測したデータと比較検証するための独立した基準を提供します。例えば、日本の温室効果ガス観測技術衛星「いぶき」（GOSAT）や、ヨーロッパのEnvisat衛星に搭載されたSCIAMACHYセンサーのデータの検証に用いられてきました。さらに、アメリカ航空宇宙局（NASA）の軌道上炭素観測衛星-2（OCO-2）ミッションにおいては、TCCONは主要な検証データセットの供給源として大きな期待が寄せられています。

観測地点

TCCONの観測地点は世界中の主要な地域に広がっており、現在、アメリカ合衆国、カナダ、ドイツ、ポーランド、フランス、日本、オーストラリア、ニュージーランドといった国々に設置されています。

測定技術

各TCCON観測地点における主要な観測装置は、フーリエ変換分光計（FTS）です。この機器は、大気中の様々な成分が太陽光を特定の波長で吸収する性質を利用して測定を行います。太陽光を光源とするこのリモートセンシング技術により、地上から大気の上端までの鉛直方向における目的成分の合計量（全気柱量）を非常に精密かつ正確に測定することが可能です。

ただし、この技術には制約も存在します。測定には太陽光が不可欠であるため、夜間はもちろんのこと、厚い雲に覆われているなど、晴天でない条件下では観測を実施することができません。このため、TCCONのデータは基本的に晴天時のものに限られますが、その高い精度と信頼性は、大気科学研究において不可欠なものとなっています。

もう一度検索