八戸水力電気

八戸水力電気株式会社

八戸水力電気株式会社は、1910年（明治43年）から1934年（昭和9年）にかけて存在した、青森県八戸市を中心に電力供給を行っていた民間電力会社です。

概要

同社は、八戸市とその周辺の16町村に対し、電力供給を担っていました。新井田川と馬淵川に合計3ヶ所の水力発電所と、旧八戸町に火力発電所1ヶ所を建設し、電力を供給しました。また、岩手県の電力会社を買収し、青森県内の電力会社と合併することで、南部地方への電力供給を拡大しました。

特に、余剰電力を産業用電力として廉価に供給したことが、大正時代の八戸地域への電気化学工業（カーバイド工場、セメント工場）の誘致を促進し、地域の産業近代化と、後の八戸臨海工業地帯の誕生に大きく貢献しました。

1911年（明治44年）に建設された島守水力発電所は、現在も稼働こそしていませんが現存しており、青森県内で最も古い水力発電所として、また東北地方でも2番目に古い近代水力発電施設として、国の登録有形文化財に登録されています。

歴史

明治時代、青森県では1897年（明治30年）に青森電灯、1901年（明治34年）に弘前電灯が開業しましたが、八戸町には電気がありませんでした。当時の八戸町では、若松旅館店頭に灯されたガス灯が珍しがられるほどでした。

1908年（明治41年）には、地域紙『奥南新報』が社説で「電力を利用せよ」と訴え、八戸の発展策として工業を推進するために、馬淵川の水力発電を利用した株式会社の設立を提唱しました。

1909年（明治42年）、八戸の有力者である橋本八右衛門、北村益ら6名が発起人となり、1910年（明治43年）6月17日、八戸町他3ヶ村への電力供給を目的として、資本金10万円（現在換算約3億5000万円）で八戸水力電気株式会社が設立されました。同年6月26日に開業し、橋本八右衛門が初代社長、二宮中輔が主任技術者を務めました。

八戸にとって電気はまだ馴染みが薄く、八戸商工会議所の元副会頭は「八戸の場合、電気がきたといっても、動力は精米所ぐらいのものでないか」と語っていたとされています。

1911年（明治44年）には、新井田川に是川水力発電所を建設し、八戸町、小中野町、湊村、鮫村に電力を供給しました。その後、電力需要の増加に対応するため、1914年（大正3年）には是川水力発電所の上流に島守水力発電所を建設しました。

大正時代に入り、タングステン電球の普及により電力に余剰が生じたため、1916年（大正5年）にはカーバイド工場を誘致し、廉価な電力を供給しました。これが八戸地方の臨海工業地帯の発展につながりました。1919年には日の出セメント（現在の八戸セメント）が設立され、地域の工業化がさらに進みました。

馬淵川水系では、1922年（大正11年）に小中島水力発電所が建設されました。1925年（大正15年）には、岩手県の福岡水力発電所を買収し、電力供給エリアを拡大しました。また、1924年（大正13年）には路面電車計画を申請しましたが、世界恐慌の影響で実現しませんでした。

1928年（昭和3年）には五戸水電と合併し、1933年（昭和8年）に青森県による電気事業買収の仮契約が締結され、1934年（昭和9年）に青森県営電気局が発足し、八戸水力電気株式会社は解散しました。

その後、八戸地域の電力事業は県営電気局、東北電力と引き継がれ、電気化学工業が発展し、様々な企業が立地しました。

発電所

是川水力発電所：1911年（明治44年）竣工
島守水力発電所：1914年（大正3年）竣工
福岡水力発電所：1919年（大正8年）6月竣工
小中島水力発電所：1922年（大正11年）竣工
* 吹上火力発電所：1929年（昭和4年）竣工

電力供給による産業の発展

1916年（大正5年）にはカーバイド工場が誘致され、1921年（大正10年）には日の出セメントが設立されました。これらの企業は、八戸地域の工業発展に大きく貢献しました。

供給エリア

設立当初は八戸町、小中野村、湊村、鮫村が供給エリアでしたが、1934年（昭和9年）には八戸市、三戸郡の広範囲な地域に拡大しました。

設立当初の電力と料金

是川発電所出力200kw、1643戸、4883灯、電力料金一電灯10燭光55銭、1KWH15銭、電力1馬力5円（昼間）でした。

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