八雲御抄

八雲御抄（やくもみしょう）

『八雲御抄』は、鎌倉時代初期の歌人であり、第84代天皇である順徳天皇によって著された歌論書です。書名の由来は、序文にある「夫和歌者起自八雲出雲之古風」という一節から来ており、八雲（出雲）の古風に根ざした和歌論であることを示しています。天皇自らが著したことから「御」が付けられ、『八雲御抄』として広く知られるようになりました。

概要

本書は、承久の乱以前から執筆が開始され、一度まとめられた草稿本が存在します。その後、承久の乱により佐渡へ配流となった順徳天皇は、配流先でこの草稿本に加筆を続け、藤原定家に送付しました。この加筆されたものが精撰本（または再撰本）として知られています。

『八雲御抄』は、先行する歌論書や歌学書を参考にしつつ、独自の体系を構築した大著であり、以下の6部構成となっています。

第一正義：序文、六義、歌体、歌病など、和歌の基本的な理論を扱います。
第二作法：歌合、歌會、書様など、和歌に関する儀式や作法について解説します。
第三枝葉：天象、時節、地儀など、和歌の題材となる自然や事象について考察します。
第四言語：世俗語、由緒語、料簡語など、和歌に用いられる言葉の種類や用法について論じます。
第五名所：山、嶺、嵩など、和歌に詠まれる名所とその出典について解説します。
第六用意：詠作の心得や歌人論など、和歌を詠む際の心構えや歌人に対する評価について述べます。

本書には、現存しない歌書からの引用が多く見られ、その内容を知る上で非常に貴重な資料となっています。

歌論としては、古風を尊重する姿勢が強く、自然な表現で詠むことを良しとしています。また、歌合などの公式な場以外では、歌の禁忌にあまりこだわらない柔軟な姿勢も示されています。例えば、不吉とされた煙の描写も、恋愛歌においては許容されています。

しかし、猿楽のような新しい芸能に対しては、「凡賎を遠ざくべき事」として拒絶的な態度を示しているなど、保守的な一面も持ち合わせています。

伝本

第一次草稿本は現存せず、第二次草稿本としては内閣文庫蔵本や志香須賀文庫本などが知られています。これらの第二次草稿本をさらに精選した精撰本は、順徳天皇宸筆本を祖本とし、藤原為家識語本、静嘉堂文庫蔵藤原為氏識語本、旧尊経閣文庫蔵伝伏見院宸筆本（九州国立博物館蔵）、志香須賀文庫蔵兼好奥書本などが存在します。

刊本としては、寛永12年（1635年）版や慶安4年（1651年）版などが確認されています。

参考文献

久曽神昇『校本八雲御抄とその研究』厚生閣、1939年。doi:10.11501/1884710。 NCID BN09216682。
片桐洋一 『八雲御抄の研究 枝葉部言語部』 研究叢書 1992年2月 和泉書院 ISBN 978-4870885226
片桐洋一 『八雲御抄の研究 正義部作法部』 研究叢書 2001年11月 和泉書院 ISBN 978-4757601222
片桐洋一 『八雲御抄―伝伏見院筆本』 研究叢書 2005年4月 和泉書院 ISBN 978-4757603073
三木麻子「『八雲御抄』 と順徳院の和歌活動」『國文學』第83-84巻、関西大学国文学会、2002年、204-218頁。
吉田薫「八雲御抄中の藤原俊成関連記事について」『大阪信愛女学院短期大学紀要』第42巻、大阪信愛女学院短期大学、2008年、1-15頁。

関連項目

順徳天皇
藤原定家
承久の乱

外部リンク

八雲御抄 - 文化遺産オンライン（文化庁）
* 八雲御抄 - 国指定文化財等データベース（文化庁）

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