公定価格

公定価格とは

公定価格とは、政府が物価を統制する目的で、特定の物品に対して定める最高販売価格のことです。これは、市場における自由な価格形成を制限し、政府が価格を管理する手段として用いられます。社会主義国家の計画経済において実施されることが一般的ですが、日本でも過去に導入されたことがあります。

日本における公定価格

日本では、日中戦争中の1938年（昭和13年）に物品販売価格取締規則が制定されたことを契機として、公定価格による物価統制が始まりました。1939年9月に第二次世界大戦が勃発すると、同月18日に物価停止令が発令され、多くの物資の価格が凍結されました。さらに同年10月18日には、9月18日時点の価格を上限とする価格等統制令が制定され、これにより、価格が厳しく統制されることとなりました。

当初、公定価格は物価高騰を抑える目的で設定されましたが、安価な商品まで便乗値上げが行われるケースが見られたため、1941年6月11日には公定価格が「最高価格」であることを明確化しました。しかし、一般的には「公定価格」という名称が定着し、そのまま使用されました。

公定価格の決定は、商工省に設置された中央物価委員会で検討されました。1943年までに、約1万2千種類もの商品に公定価格が定められ、これらの商品は「マル公価格」と呼ばれました。公定価格は、〇の中に「公」の字を入れた記号で表示されました。また、公定価格の例外として、特別許可による「許可価格（マル許価格）」、新製品用の「マル新価格」、価格協定による「協定価格（マル協価格）」も存在しました。

公定価格は、原則として一か月前の価格を参考に決定されました。例えば、ビールや清酒、砂糖などは増税分が考慮され値上げされましたが、コーヒー豆や針金などは約2割の値下げとなりました。特にコーヒー豆のように、品質や産地を問わず価格が一律化されたことで、市場に混乱が生じた事例もありました。

カステラのような食品では、重さで公定価格が決められたため、鶏卵や砂糖などの高価な材料の使用が抑制され、品質が低下する現象も見られました。このような状況を鑑み、農林省が原材料の使用量を規定するケースも存在しました。

戦後の公定価格

終戦後もインフレーションが収まらず、1946年3月3日には、価格等統制令に代わる物価統制令が公布されました。その後、1949年のドッジ・ライン実施によってインフレーションが沈静化するにつれて、公定価格は段階的に撤廃されていきました。しかし、物価統制令自体は2017年現在においても有効な法律として残っています。

公定価格は、戦時下や経済混乱期において、物価を安定させるための政策として機能しましたが、市場の自由な価格形成を阻害し、経済の歪みを生じさせる側面も持ち合わせていました。その歴史から、価格統制が経済に与える影響を学ぶことができます。

参考文献

清水洋二「公定価格」（『日本歴史大事典 2』小学館、2000年） ISBN 978-4-09-523002-3

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