六の和音

六の和音（ろくのわおん）

「六の和音」（英: sixth chord）は、和音を構成する音のうち、最低音から数えて6度上の音程を持つ音を含む和音を指す言葉です。この名称は、主にクラシック音楽の文脈とポピュラー音楽の文脈において、それぞれ異なる種類の和音を指すために用いられます。具体的には、以下の二つの和音のいずれか、またはその両方の総称として扱われます。

1. 三和音の第一転回形
2. 根音に第3音、第5音、そして第6音を重ねた四和音

どちらの意味で用いられているかは、音楽のジャンルや会話の状況によって判断する必要があります。一般的に、クラシック音楽の理論において単に「六の和音」と言う場合は前者を指すことが多く、ポピュラー音楽、特に英語由来の「シクス」や「シックス」という呼称を使う場合は後者を指す傾向にあります。

三和音の第一転回形としての「六の和音」

三和音を転回させた形のうち、最低音が根音の3度上の音（第3音）になっているものを第一転回形と呼びます。歴史的な経緯から、この第一転回形は「六の和音」とも称されます。この呼び方は、主に17世紀から18世紀にかけて発展した数字付き低音の記法に由来しています。数字付き低音では、低音の上に積み重ねるべき音程を数字で示しますが、三和音の第一転回形の場合、低音（根音の第3音にあたる）から数えて3度上と6度上に和音の構成音が存在するため、「三六の和音」と表記されることがありました。しかし、和音の基本形においても低音から3度上の音は必ず存在するため、「三」が省略され、単に「六の和音」と呼ばれるようになったのです。

「六の和音」（三和音の第一転回形）には、特別な形で扱われるものも存在します。例えば、短音階のIV度の和音の第一転回形である「ナポリの六度」や、属音上の和音に変化を加えた「増六の和音」などが挙げられます。これらは古典派音楽などにおいて、特定の機能や色彩を持つ和音として重要視されます。

また、数字付き低音では、「四六の和音」（三和音の第二転回形）や、「五六の和音」（七の和音の第一転回形）など、他の転回形や七の和音にも「六」を含む名称が用いられます。これらの名称も低音からの音程関係に基づいています。

四和音の一種としての「六の和音」（シクスコード）

もう一つの「六の和音」は、三和音に根音から長6度上の音程を持つ音を加えることで形成される四和音を指します。この和音は、特にポピュラー音楽の分野で頻繁に用いられ、英語由来の「シクスコード」という名称で知られています。

最も一般的なのは、長三和音（根音＋長3度＋完全5度）に長6度を加えた和音です。例えば、ハ長調の主和音であるCコード（ド-ミ-ソ）に長6度上のラを加えた「C6」（ド-ミ-ソ-ラ）などがこれにあたります。一方、短三和音（根音＋短3度＋完全5度）に長6度を加えたものは、「マイナーシクスコード」（例: Cm6）として区別されることがあります。

クラシック音楽の理論が三和音とその転回形、そして七の和音を基本的な構成要素とするのに対し、ポピュラー音楽、特にジャズやボサノヴァなどでは、六の和音を基本的な響きの一つとして捉え、頻繁に用いることが特徴です。そのため、ジャズミュージシャンやアレンジャーの間では、楽譜上に単に長三和音を示すコードシンボル（例: C, Cmaj）が記されている場合でも、特別な指示（例: C△）がない限り、六の和音（C6）として解釈し演奏することが少なくありません。これは、六の和音が持つ安定しつつも浮遊感のある響きが、ポピュラー音楽のコード進行によく馴染むためです。

クラシック音楽の比較的新しい和声理論書などでは、この種の四和音を「付加六の和音」と呼んで、三和音の第一転回形としての「六の和音」と区別することもあります。また、数字付き低音においては、三和音の第一転回形としての「六の和音」に、根音から5度上の音程を持つ音（通常は根音）が加わったような状態を示すために、「五六の和音」という名称が使われることもあります。これは、先述の「五六の和音」（七の和音の第一転回形）とは異なる文脈での使用例です。

付加六の和音の古典的な用例としては、主音に対するサブドミナント和音（長音階のIV度など）に第6音が付加された形（IV+6）が挙げられます。これは、終止形において特徴的な響きをもたらすことがあります。

六の和音は、その多様な意味合いと音楽ジャンルごとの扱い方の違いから、理論と実践の両面で理解を深めることが重要な和音と言えるでしょう。関連する和音としては、七の和音、特に短七の和音（セブンスコード）なども、ポピュラー音楽における基本的な四和音として六の和音と共に頻繁に用いられます。

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