六十余州名所図会

『六十余州名所図会』（ろくじゅうよしゅうめいしょずえ）は、江戸時代末期を代表する浮世絵師、歌川広重によって制作された、日本各地の名所を描いた木版画の連作です。この作品は、広重が晩年に手がけたもので、彼の画業の集大成とも言えるでしょう。

制作期間は1853年（嘉永6年）から1856年（安政3年）にかけてとされており、広重の円熟した技術と、新たな表現への挑戦が随所に見られます。作品は、当時の行政区分である五畿七道の68ヶ国と、特別に江戸を加えた、合計69枚の名所絵で構成されています。これに加えて、全体の目録となる1枚が付属し、全70枚でひとつの作品として完結します。

各図は、縦長の画面構成が特徴的で、広重は前景を大きく描くことで遠近感を強調したり、大胆なトリミングを施すなど、従来の浮世絵には見られない斬新な構図を積極的に取り入れています。これらの手法によって、各地域の風景がよりダイナミックに、そして印象的に表現されていると言えるでしょう。

『六十余州名所図会』は、単なる名所の記録にとどまらず、広重の卓越した描写力と、革新的な構図センスによって、芸術作品としての価値を確立しました。この作品は、当時の人々に旅への憧れを抱かせるとともに、現代においても、日本各地の美しい風景を、広重のフィルターを通して追体験できる、貴重な文化遺産と言えるでしょう。

参考文献としては、『大日本国細図 名所図会で巡る 広重の諸国六十余州旅景色』（森山悦乃・松村真佐子、人文社、2005年9月、ISBN 4795919100）が挙げられます。この文献は、『六十余州名所図会』をより深く理解する上で、有益な情報を提供してくれるでしょう。

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