六本木野獣会

六本木野獣会は、日本の高度経済成長期にあたる1960年代初頭に、東京の六本木や赤坂界隈で活動していた若者の集団です。その中心には、後に作曲家として著名になるすぎやまこういち氏や歌手の田辺靖雄氏らがいました。正式名称は「野獣会」でしたが、当時の流行の最先端であった六本木に集うことが多かったため、同時期に存在した別の若者グループ「六本木族」と混同され、「六本木野獣会」として広く認識されるようになりました。

結成とメンバー

このグループは1961年に組織されたとされていますが、その母体となる若者の集まりは1950年代後半から自然発生的に存在していたと言われています。メンバーの多くは、当時の富裕層や名家の家庭の子女であり、洗練されたライフスタイルを送っていました。一時はデザイナーを志す若者も加わり、最大で30人ほどの規模になったとされます。

野獣会のメンバーとして名前が挙げられる著名人には、田辺靖雄氏のほか、俳優の峰岸徹氏や中尾彬氏、女優の大原麗子氏や小川知子氏、歌手でタレントの井上順氏、音楽家のムッシュかまやつ氏、レーサーの福澤幸雄氏などがいます。初期のリーダー的存在は、当時新東宝の女優であった秋本まさみ氏でした。秋本氏は、野獣会をモデルにした映画『狂熱の果て』（1961年公開、大宝製作）の原作を手がけています。

活動拠点と文化交流

野獣会の連絡先は四谷に置かれていましたが、メンバーが日常的に集まっていたのは、赤坂にあった日本初のカフェテラスとされる「シャンゼリゼ」でした。一方、同時期に活動していた「六本木族」は、六本木のカフェ「レオス」や、1960年に開店し文化サロン的な役割も果たしていた飯倉のレストラン「キャンティ」などを主な拠点としていました。このように、野獣会と六本木族は活動エリアが重なりつつも、集まる場所には違いがあったようです。

当時のフジテレビのディレクターであったすぎやまこういち氏は、六本木で遊んでいた良家の若者たちを自身で組織し、1962年に放送された自身の担当番組『森永スパーク・ショー』に出演させたとも語っています。これは、メディアと若者文化の初期の接点として注目すべき点です。また、1963年公開の映画『マタンゴ』に登場するキャバレー歌手のキャラクターは、野獣会のメンバーがモデルになっていると言われています。

グループの変遷と影響

野獣会の主要メンバーの多くは、その若さと才能を見出され、芸能界や音楽界へと進出しました。1961年には田辺靖雄氏が渡辺プロダクションに、峰岸徹氏が東宝にスカウトされています。1963年には井上順氏が、後に「ザ・ジャガーズ」の前身となるバンド「野獣会オールスターズ」に参加し、さらに2年後には「ザ・スパイダース」に加入するなど、グループからスターが次々と生まれました。

このように中心メンバーがプロの世界に進んだことで、野獣会自体は数年で自然消滅していきました。しかし、彼らが六本木・赤坂で形成した若者文化は、当時のメディアに大きな影響を与えました。彼らの存在がメディアで取り上げられたことで、六本木の若者をテーマにした映画が多数製作されることになります。例えば、『狂熱の果て』（1961年）、『うるさい妹たち』（1961年）、『若者たちの夜と昼』（1962年）、『六本木の夜愛して愛して』（1963年）などが挙げられます。

また、1964年の東京オリンピック後に原宿に出現した「原宿族」の中には、六本木野獣会の後継者を自称する「カスミ会」というグループが登場するなど、その影響は後続の若者文化にも及んだとされています。

なお、女優の加賀まりこ氏は六本木族の一員ではあったものの、野獣会とは無関係であったことを後に語っています。彼女は野獣会について「田舎者の集まり」と評したとも言われています。

その名は、後年のテレビドラマ『ヤヌスの鏡』（1985年-1986年）に登場する不良グループ名「野獣会」の由来になったと考えられているほか、ラジオ番組のコーナー名にも使われるなど、大衆文化の中に痕跡を残しています。

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