六角家 (ラーメン店)

六角家（ろっかくや）

六角家は、横浜を発祥とするラーメンの主要なジャンルである「家系ラーメン」を代表する存在の一つであり、かつてその運営を担っていた企業名（有限会社六角家、現存せず）です。本店を運営していた会社は2020年に破産により消滅しましたが、「六角家」の屋号を冠する姉妹店や、運営が異なる戸塚店などが現在も営業を続けています。六角家は家系ラーメンの歴史において重要な位置を占めており、その系譜は今も脈々と受け継がれています。

創業とその歴史

六角家は、創業者である神藤隆氏によって、1988年（昭和63年）に横浜市神奈川区に誕生しました。神藤氏は、家系ラーメンの元祖である吉村家の2号店として知られる本牧家でラーメン作りの技術を学んだ後、独立して自身の店を開きました。創業地は、店名の由来ともなった六角橋商店街に近く、東急東横線の東白楽駅と白楽駅の間に位置していました。開業当初はカウンター席のみの小規模な店舗でしたが、吉村家と同じく酒井製麺の麺を使用し、多くのファンを獲得しました。

家系御三家と競争

六角家は、吉村家、そして師事した本牧家と並んで、「家系御三家」と称されるようになりました。しかし、創業時に本牧家の従業員の多くを引き抜いたとされるため、本牧家は一時的に営業が困難な状況に陥り、吉村家と六角家の間には確執が生じたと言われています。後に、六角家の本店がある街道沿いの近隣に、吉村家直系の末廣家や、元吉村家直系とされる王道家系列のとらきち家が相次いで開店。この出来事は、家系ファンの間で「ラーメン三つ巴戦争」と呼ばれ、「吉村家が弟子を使って六角家を潰しにかかった」といった憶測を呼び、語り草となりました。

事業の拡大と衰退

六角家は1990年（平成2年）9月に法人化。1994年には新横浜ラーメン博物館の開業に合わせて同館に出店を果たし、全国的な認知度を高めることになりました。この頃には、関東地方のセブン-イレブンで六角家の名前を冠したオリジナルカップ麺も発売されるなど、その人気は確固たるものとなります。2012年の時点では、本店を含む6店舗を直営で運営し、多くの姉妹店が暖簾分けによって誕生しました。かつては札幌、名古屋、大阪、高松といった地方都市にも直営店を展開するなど、精力的に事業を拡大していました。

しかし、2015年頃から経営が悪化。消費税の滞納が発覚し、創業者の自宅に抵当権が設定される事態となります。有能な弟子の独立や前述の競争激化、さらには創業者の体調不良などが重なり、来店客数は減少。ついに2017年10月末をもって、六角橋の本店は閉店を余儀なくされました。本店を運営していた有限会社六角家は、その後も事業を立て直すことはできず、2020年（令和2年）9月4日に横浜地方裁判所から破産手続きの開始が決定され、同年12月21日に法人としての存在は消滅しました。

屋号の継承とラーメン博物館での再出店

本店は姿を消しましたが、「六角家」の屋号は引き継がれています。特に、2018年（平成30年）12月13日からは、創業者である神藤氏の実弟が設立した株式会社ヘキサゴナルハウス（「六角家」を英語に置き換えた社名）により、戸塚店が運営されています。

また、新横浜ラーメン博物館の30周年企画「あの銘店をもう一度」の一環として、六角家の再出店が企画されました。創業者の神藤氏は弟子の手による出店であればと快諾しましたが、残念ながら2022年10月5日に逝去され、その実現を見届けることはできませんでした。神藤氏の指名により、浜松で蔵前家を営む弟子の袴田裕司氏がこのプロジェクトの中心人物となり、2024年4月より「六角家1994+」としてラーメン博物館での営業を再開し、現在も多くのラーメンファンを惹きつけています。

ラーメンの特徴と家系への影響

六角家のラーメンは、他の家系ラーメン店と比較して、スープの味がやや柔らかいのが特徴とされます。家系御三家それぞれの味の特徴として、吉村家は醤油、本牧家はバランス型、そして六角家は豚骨の風味が強いといった区分けがされることもあり、それぞれの系譜を受け継ぐ店舗の味の基準となっています。また、吉村家とは一線を画す六角家と本牧家の系統を「クラシック家系」と表現する向きもあります。これは、たかさご家を発端とし、後に武蔵家などを中心に勢力を拡大した「東京家系」や「新中野系」などと呼ばれる店舗群と比較し、それ以前の伝統的な流れを汲む家系という意味合いが込められています。

さらに、現在の横浜家系ラーメンでは広く採用されている「味の濃さ」「麺の茹で加減」「油の量」を客の好みに合わせて調整できるシステムは、六角家がその発祥であると言われています。このように、六角家は家系ラーメンの発展に大きな影響を与えた存在として、その歴史に名を刻んでいます。

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