共有メモリ

共有メモリとは



情報処理における共有メモリとは、複数のプログラムが並行してアクセスできるメモリ領域のことです。主に、プログラム間のデータ通信や、冗長性を排除する目的で使用されます。共有メモリは、プログラム間で効率的なデータ交換を実現する手段であり、単一プロセッサ上での利用だけでなく、複数プロセッサ間での利用も可能です。

概要



共有メモリは、異なるプログラム間で情報をやり取りするための効率的な手段です。例えば、マルチスレッドのように、プログラム内で仮想空間を共有している場合は、通常「共有メモリ」とは呼ばれません。共有メモリが使われる場面は、主に以下の2つです。

1. プログラム間の通信: 複数のプログラム間でデータを共有し、効率的に連携させます。
2. 冗長性の排除: 同じデータを複数の場所で保持する代わりに、共有メモリを利用することでメモリ使用量を削減します。

共有メモリは、プログラムが単一プロセッサ上で動作する場合だけでなく、複数のプロセッサで動作する場合にも利用できます。

ハードウェアによる共有メモリ



ハードウェアレベルでの共有メモリは、マルチプロセッサシステムにおいて、複数のCPUがアクセスできる大きなRAMの領域を指します。共有メモリシステムでは、全プロセッサがデータを共有するため、プログラミングが比較的容易で、高速なプロセッサ間通信が可能です。しかし、CPUは高速なメモリアクセスを必要とするため、キャッシュメモリを持つことが一般的です。このため、以下のような問題が発生します。

1. CPU-メモリ間のボトルネック: 共有メモリ型コンピュータでは、プロセッサ数を増やすと、メモリへのアクセス集中がボトルネックとなり、性能向上が鈍化します。
2. キャッシュコヒーレンシ問題: あるキャッシュでメモリの内容が更新された場合、その変更を他のプロセッサのキャッシュにも反映させる必要があります。この処理を適切に行わないと、プロセッサ間でデータの不整合が発生します。

これらの問題に対処するため、クロスバースイッチ、オメガネットワーク、HyperTransportなどの技術が用いられます。また、キャッシュコヒーレンシ問題を解決するためのプロトコル(コヒーレンシプロトコル)も重要な役割を果たします。

GPU内の共有メモリ



GPGPUに対応したGPUでは、スレッドブロック(ワークグループ)内でのみアクセス可能な共有メモリが存在します。この共有メモリは、グローバルメモリ(VRAM)と比較して小容量ですが、高速なアクセスが可能です。アプリケーションコードから操作可能なキャッシュメモリとして機能し、CUDAOpenCL、DirectComputeなどのAPIを通じて、グローバルメモリから読み出したデータをスレッドブロック内で共有したり、計算結果を交換したりすることで、高速化に貢献します。

ソフトウェアによる共有メモリ



ソフトウェアにおける共有メモリは、主に以下の2つの意味を持ちます。

1. プロセス間通信 (IPC) の技法: 複数のプロセス間でデータを交換するためのメカニズムです。あるプロセスが、他のプロセスからもアクセスできるメモリ領域を作成します。
2. メモリマッピング: 仮想記憶機構やプログラムによって、同じ物理メモリを複数のプログラムからアクセスできるようにマッピングします。これにより、データの複製を避けることができます。

共有メモリによるIPCは、名前付きパイプやソケットといった他のIPC手段と比較して高速ですが、プロセスが同じマシン上で動作している必要があります。また、共有メモリは複数のプロセスから同時にアクセスされる可能性があるため、競合を避けるためのセマフォやロックなどの機構が必要になります。

UNIXでのサポート



UNIX系OSでは、POSIX標準で共有メモリAPIが提供されています。`shm_open`関数で共有メモリを作成し、`shmat`, `shmctl`, `shmdt`関数で操作を行います。また、`mmap`関数を使ってファイルをメモリにマッピングすることで、プロセス間で共有メモリのように扱うことができます。Linuxでは、`/dev/shm`ディレクトリがRAMディスク形式の共有メモリとして利用できます。

Androidでのサポート



Androidでは、Linuxカーネルをベースにしていますが、独自の`ashmem`(anonymous shared memory)というメカニズムが使用されています。これは、メモリ不足時にカーネルが解放できる共有メモリであり、`ashmem_pin_region()`関数で解放されないように固定できます。

Windowsでのサポート



Windowsでは、Win32 APIの`CreateFileMapping()`関数で共有メモリを作成し、`MapViewOfFile()`関数でプロセスのアドレス空間にマッピングします。`OpenFileMapping()`関数で、作成済みの共有メモリのハンドルを取得できます。

プログラミング言語ごとのサポート



多くのプログラミング言語やライブラリで、共有メモリを扱うための機能が提供されています。例えば、C++のBoost.Interprocess、POCO::SharedMemory、QtのQSharedMemoryクラスなどが挙げられます。PHPや.NET Frameworkでも、共有メモリを扱うためのAPIが提供されています。

まとめ



共有メモリは、複数のプログラム間でデータを共有するための効率的なメカニズムです。ハードウェアとソフトウェアの両面で利用され、それぞれに異なる特徴と課題があります。共有メモリを適切に利用することで、システムのパフォーマンスを大幅に向上させることができます。しかし、同時に、キャッシュコヒーレンシや競合などの問題に対処する必要があることも理解しておくべきです。

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