内山正雄

日本造園学界の重鎮、内山正雄

内山 正雄（うちやま まさお）氏は、1917年にこの世に生を受け、2009年までの生涯を日本の造園学の発展と後進の育成に捧げた傑出した学者です。特に東京農業大学においては、長年にわたり教鞭を執り、数多くの造園家を世に送り出しました。また、日本造園学会の会長をはじめとする要職を歴任し、学術振興にも多大な功績を残しています。

東京府東京市日本橋区葺屋町（現在の東京都中央区日本橋人形町）で産声を上げた内山氏は、幼少期を豊多摩郡中野町（現在の東京都中野区）で過ごしました。実家が商店を営む家庭に育ち、京華中学校を経て、1934年に東京農業大学へと進学し、造園の道を志します。1939年に同学を卒業後、東京市役所に奉職し、専門知識を活かしたキャリアをスタートさせました。

しかし、時局は緊迫しており、1943年には海軍航空隊に招集され、一時的に公職を離れて軍務に就きました。終戦後、東京都庁へ復員した内山氏は、国家公務員としての新たな道を歩み始めます。戦災からの復興を目指す戦災復興院に出向し、その後は建設省（現在の国土交通省の一部）へと移籍。およそ二十数年もの長きにわたり、国土計画や都市整備、公園緑地行政など、造園の専門家として日本のインフラ再建と環境整備に深く携わりました。この時期の行政実務での経験は、後の教育・研究活動における貴重な基盤となったことでしょう。

1969年、内山氏は母校である東京農業大学に迎え入れられ、教育者としてのキャリアを本格的に展開します。大学では、研究活動に励む傍ら、次世代の造園家を育成するための教育に情熱を注ぎました。また、国家公務員試験や造園施工管理技士試験といった、造園分野における重要な資格試験の作成にも関与。これは、学術的な知識だけでなく、実務能力や専門技術の標準化と向上に貢献するものであり、日本の造園業界全体の質の底上げに寄与する活動でした。

大学を退職した後も、内山氏はその豊富な知識と経験を社会に還元し続けました。株式会社都市計画研究所での専門的なアドバイスや、昭和女子大学生活美学科での後進指導、さらには各種委員会のメンバーとして、様々な立場で造園および関連分野の発展に貢献しました。

内山氏の業績は広く認められており、特に以下の顕著な賞を受賞しています。

1976年：第4回日本公園緑地協会北村賞
1988年：第7回日本造園学会上原賞

これらの賞は、内山氏が生涯を通じて成し遂げた学術的、教育的、そして実践的な功績を称えるものです。

また、内山氏は数多くの著作を通じて、自身の研究成果や知見を広めました。主な著書には以下のようなものがあります。

『都市緑地の計画と設計』（編者、彰国社、1987年）：都市における緑地の重要性とその計画・設計手法に関する専門書として、広く参照されました。
『代々木の森』（共著、郷学舎、1981年）：東京公園文庫の一つとして、特定の公園の歴史や価値に光を当てています。
『東京の遊園地』（共著、郷学舎、1981年）：同じく東京公園文庫として、都市におけるレクリエーション空間の歴史や現状を紹介しています。
『土地とランドスケープ : その進展,デザインおよびコントロール』（ブレンダ・コルビン 著 ; 共訳、日本公園緑地協会）：海外の先進的なランドスケープ理論を紹介し、国内の造園学の視野を広げることに貢献しました。
* 『造園用語辞典』（彰国社、1985年）：東京農業大学農学部造園学科造園用語辞典編集委員会編として関与。造園の専門用語の普及と理解促進に不可欠な基礎資料となりました。

これらの著作は、内山氏の研究テーマの広さと深さを示すとともに、当時の造園学や実務の発展に大きな影響を与えました。教育、研究、行政実務、そして著作活動という多岐にわたる活動を通じて、内山正雄氏は日本の造園分野における礎を築き、今日の豊かな都市環境や公園緑地の実現に貢献した偉大な学者と言えるでしょう。

（参考文献：「内山正雄氏に聞く (上原敬二賞受賞者に聞く)」造園雑誌 53(4),1990年3月号 社団法人日本造園学会）

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