内山登紀夫

内山登紀夫氏は、1956年生まれの日本の児童精神科医です。発達障害分野の第一人者として知られ、その臨床経験に基づいた実践的な支援方法の普及に長年貢献しています。

三重県尾鷲市で誕生した内山氏は、京都での中高時代を経て、1983年に順天堂大学医学部を卒業しました。精神医学を専門とする道に進み、研修医として経験を積んだ後、1987年からは児童精神科医療の拠点であった東京都立梅ヶ丘病院で勤務を開始します。この間、専門性を深めるため、米国ノースカロライナ大学医学部での研修を経験しました。

特に重要な転機となったのは、1997年から約1年間、イギリスの自閉症協会付属施設での留学です。ここで内山氏は、自閉症研究における世界的権威であるローナ・ウィング氏とジュディス・グールド氏に師事しました。両氏から直接学んだ経験は、その後の内山氏の臨床実践および研究活動の根幹を形成する上で、かけがえのない財産となりました。

帰国後、内山氏は発達障害のある当事者とその家族への支援をより充実させるため、2000年に「よこはま発達クリニック」を開設し、現在まで院長を務めています。クリニックでは、一人ひとりの特性に合わせたきめ細やかな診断と支援が行われています。また、2006年には順天堂大学医学部から博士号（医学）を取得し、臨床と並行して研究活動も積極的に行っています。

大学教育の分野でも長年にわたり貢献しています。大妻女子大学、福島大学、大正大学で教鞭を執り、後進の育成にあたりました。2025年現在は、福島学院大学の副学長および福祉学部福祉心理学科の教授として、教育・研究活動を続けています。さらに、同大学が中心となって設立された「福島子どもと親のメンタルヘルス情報・支援センター FCMIC」および「親と子のサポートセンターふくしま」のセンター長も兼任しています。

特に、東日本大震災以降は、被災地である福島県の子どもたちと保護者のメンタルヘルスケアに深く関わっています。震災が子どもたちの心に与える影響や、発達障害のある被災者への特別な配慮の必要性について研究を行い、積極的な支援活動を展開しています。この分野での貢献は高く評価され、福島大学学長表彰などを受けています。

内山氏の研究・臨床成果は、多くの著作や監修書籍として発表されています。自閉症スペクトラム、ADHD、LDなど、様々な発達障害に関する専門書や、保護者向けの啓発書を多数手がけ、日本の発達障害支援の理解促進に貢献しています。特に、TEACCHプログラムに関する著作や翻訳も多く、その実践的な知識の普及に努めてきました。

また、日本自閉症協会副会長として、当事者や家族の権利擁護、社会啓発活動にも力を入れています。学会活動も活発に行い、関連する主要な学会に所属しています。加えて、テレビ番組への出演、新聞記事での発言、SNSやブログ、Voicyなどを通じた情報発信も積極的に行っており、幅広い層へ発達障害に関する正確な情報を届けようとしています。

これらの多岐にわたる活動を通じて、内山登紀夫氏は日本の児童精神医療、とりわけ発達障害分野における臨床、研究、教育、そして社会支援の向上に、長年にわたり重要な役割を果たしています。その経験と知見は、当事者や家族、そして支援に携わる専門家にとって、貴重な羅針盤となっています。

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