内気なあいつ

1970年代を代表するアイドルグループ、キャンディーズが1975年 6月1日にリリースした通算6枚目のシングルが「内気なあいつ」（うちきなあいつ）です。作詞は千家和也、作曲および編曲は穂口雄右という、キャンディーズの楽曲を多数手がけた黄金コンビによって制作されました。この楽曲は、当時のキャンディーズサウンドの一側面を示す興味深い一曲として位置づけられます。

楽曲の特徴

「内気なあいつ」の大きな特徴は、その歌唱スタイルにあります。キャンディーズの楽曲は、3人のメンバーによる美しいハーモニーが魅力の一つですが、本作においては主旋律が主にソロまたはユニゾン（3人が同じメロディを歌うこと）で構成されています。これにより、従来の楽曲に比べてコーラスワークの比重が相対的に少なく、個々の歌声やユニゾンによる一体感が前面に出たアレンジとなっています。

しかし、完全にコーラスがないわけではありません。楽曲の随所で効果的に使用されるスキャットが、楽曲に彩りと奥行きを加えています。特に間奏部分では、3人の声による3声和音の美しいスキャットが展開され、キャンディーズの高い歌唱能力を示しています。また、歌唱の合間に入る合いの手のようなスキャットは2声和音で構成されており、シンプルながらも楽曲全体の軽快なリズム感を強調するアクセントとなっています。

楽曲の演奏には、当時の日本の音楽シーンを支えた一流のミュージシャンが参加しています。特にドラムスには、田中清司氏と村上秀一氏という二人の著名なドラマーの名前がクレジットされています。一つの楽曲でドラムスが二人クレジットされるのは比較的珍しいケースであり、どのようにレコーディングが行われたのか、あるいはそれぞれのドラマーがどのような役割を担ったのかなど、興味深い点です。彼らの安定したリズムとグルーヴが、楽曲のポップな魅力をしっかりと下支えしています。

メディアとパフォーマンス

「内気なあいつ」は、メディアでの使用も注目されました。1975年に公開された、当時の人気コメディグループ、ザ・ドリフターズ主演の映画『ザ・ドリフターズのカモだ!!御用だ!!』の挿入歌として採用され、映画館のスクリーンを通じて多くの人々に届けられました。

また、テレビ番組での歌唱パフォーマンスにおいても、本作は特徴的な時期の楽曲と言えます。キャンディーズは「内気なあいつ」とその前作シングルにわたり、テレビ出演時にスタンドマイクを使用して歌唱するスタイルを2作連続で取りました。これは、当時の歌番組におけるパフォーマンスの流行の一端でもありましたが、キャンディーズが固定された位置でじっくりと歌唱を聴かせる演出を試みた時期であったことを示唆しています。

商業的成功

商業的な側面では、CBS・ソニー（当時）の調査によると、キャンディーズの解散コンサートが開催された時点での累計シングル売上は16万枚を記録しています。これは、彼女たちのキャリア初期におけるシングルとしては堅調な売上であり、グループの人気が着実に上昇し、広がりを見せていた時期のヒット曲の一つと言えるでしょう。

収録曲

このシングルには、「内気なあいつ」の他にカップリング曲として「恋の病気」が収録されています。両楽曲とも、作詞は千家和也、作曲および編曲は穂口雄右によって手がけられています。「内気なあいつ」の演奏時間が3分16秒であるのに対し、カップリングの「恋の病気」は3分31秒とやや長めの尺となっています。どちらの楽曲も、当時のキャンディーズが得意とした、青春の瑞々しさや恋心を歌った、明るくポップな楽曲に仕上がっています。

その他

「内気なあいつ」は、キャンディーズの初期の楽曲の一つとして、その後のグループの音楽性の発展を辿る上で興味深い作品です。特に、コーラスワークを主体としない歌唱構成は、他の代表曲とは異なるアプローチであり、音楽的な多様性を示しています。この楽曲は、ベストアルバム『GOLDEN☆BEST キャンディーズ』などにも収録されており、現在でも聴くことが可能です。リリースされた1975年は、日本の音楽シーンが多様化し、アイドル歌謡も独自の発展を遂げていた時期であり、その文脈の中で「内気なあいつ」も語られるべき楽曲と言えるでしょう。

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