内藤正敏

内藤正敏（1938年生まれ）は、写真家であり、民俗学者である。日本の民俗文化、とりわけ東北地方の民間信仰をテーマとした作品で知られる。

早稲田大学理工学部応用化学科卒業後、倉敷レイヨン（現クラレ）中央研究所に勤務するも、在学中から写真を制作していた彼は、1962年にフリーランスの写真家となる。

1963年、内藤は出羽三山で修行を行い、翌年には羽黒山伏の入峰修行を経験。この経験は彼の後年の作品に大きな影響を与えた。以降、東北地方の民間信仰や民俗をテーマにした撮影活動を精力的に展開。独特の視点と高度な技術で撮影された写真は、日本の民俗文化を深く理解する上で貴重な資料となっている。

彼の作品は、単なる記録にとどまらない。信仰の対象である山々、古くから伝わる祭祀、そして人々の生活に息づく信仰の姿は、内藤のレンズを通して、観る者の心に深く刻まれるような力強さを備えている。

内藤は数々の写真賞を受賞している。代表的な受賞歴には、1963年のカメラ芸術新人賞、二科賞、1966年の日本写真批評家協会新人賞、1983年の土門拳賞、1986年の日本写真家協会年度賞などがある。これらは、彼の作品の高い芸術性と、民俗学研究への貢献を高く評価された証である。

写真活動と並行して、内藤は民俗学研究にも積極的に取り組んでいる。東北芸術工科大学大学院教授を歴任し、日本民俗学会会員、見世物学会評議委員を務めるなど、研究者としての活動も多岐に渡る。彼の学術的な知見は、写真の作品に深みと説得力を与えている。

数多くの著書も出版している。代表的なものとして、『日本の即身仏』（佐野文哉との共著）、『ミイラ信仰の研究』、そして『遠野物語の原風景』などがある。『遠野物語の原風景』は、柳田國男の『遠野物語』を写真を通して再解釈したもので、内藤の写真とテキストが、遠野の独特な文化と自然を鮮やかに表現している。

そのほかの著作には、『ご利益』シリーズ（東京編、京都編）、『婆：東北の民間信仰』、など、東北地方の民俗信仰に関する写真集や研究書が多数ある。また、『古代金属国家論』（松岡正剛との共著）、『鬼がつくった国・日本』（小松和彦との共著）など、日本の歴史や文化を独自の視点で考察した著作も発表している。

内藤正敏の写真と研究は、日本の文化、特に民俗信仰の理解に大きく貢献しており、これからも多くの人の心を捉え、日本の文化遺産の保存と継承に貢献し続けるであろう。彼の活動は、写真と民俗学の融合という新たな視点を提示し、日本の文化研究に大きな影響を与え続けている。さらに、彼は日本の都市と地方の文化、伝統と現代の対比を、鋭い視点と豊かな表現力をもって提示することで、観る者に深い思考を促す作品を作り続けている。彼の活動は、単に写真を撮影し、本を執筆するにとどまらず、日本の文化を次世代へと繋ぐ、重要な役割を担っていると言えるだろう。

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