内郷丸遭難事件

内郷丸遭難事件

1954年10月8日、神奈川県相模湖で発生した痛ましい水難事故。定員を大幅に超えた遊覧船「内郷丸」が沈没し、修学旅行中の麻布中学校の生徒22名が命を落としました。この事故は、安全管理の甘さと過積載の危険性を改めて浮き彫りにしました。

事故の経緯

事故当日、麻布中学校の2年生276名は、教員6名に引率され、遠足で高尾山・相模湖方面へ向かいました。高尾山登山後、一行は相模湖畔に到着。当初はダム見学を予定していましたが、茶店の勧めにより急遽、遊覧船に乗船することになりました。

乗船を希望した生徒75名と教員2名が、定員19名の内郷丸に乗り込みました。船主の説明によれば、料金徴収中に生徒が我先にと乗り込み、そのまま出航してしまったとのことです。後の調査で、この時の総重量は約3,660kgと判明。定員を大幅に超えていました。

内郷丸は12時55分頃に出航しました。船頭は「いつもと変わりない」と判断しましたが、実際には過積載により船尾の排気管が水没。毎分23kgのペースで浸水が始まっていました。岸にいた船主は危険を察知し、大声で引き返すよう叫びましたが、船頭には届きませんでした。

出航からわずか3分後、船内に浸水が始まり、船内は騒然となりました。出航から10分後の13時5分頃、船尾から激しい浸水が始まり、船は沈没しました。生徒たちは湖に投げ出され、沈んだ船体にしがみつきながら救助を待ちました。駆けつけた他の遊覧船やモーターボートによって救助されましたが、20名が行方不明となりました。

その後、2名の生徒の遭難が確認され、最終的に22名もの生徒が犠牲となる大惨事となりました。

救助と捜索

翌日早朝から、警察、消防、自衛隊が捜索を開始し、湖底から22名の遺体が引き上げられました。この事故は社会に大きな衝撃を与え、安全管理の重要性を改めて認識させました。

海難審判

横浜地方海難審判庁は、事故発生後直ちに調査を開始。内郷丸の船体検査、関係者への聞き取りなどを行い、船頭と船舶所有者を指定海難関係人に指定しました。審判では、船舶所有者が法令に違反して船舶を改造していたこと、船頭が定員を超過した乗客を乗せたこと、さらに沈没の危険に気づかなかったことなどが問題視されました。

最終的に、船舶所有者と船頭の過失によるものと結論付けられ、関係法令の順守や定員厳守の重要性が改めて強調されました。

現在

現在、さがみ湖リゾートプレジャーフォレスト内に慰霊碑が建立され、麻布学園の教職員が毎年献花を続けています。この慰霊碑は、事故の教訓を後世に伝えるとともに、犠牲者の冥福を祈る場所となっています。

遭難した船「内郷丸」

内郷丸は、1947年に建造された木造船で、当初は手漕ぎ船として使用されていました。1951年に原動機が取り付けられ、1954年の検査で旅客19名、船員2名の定員が定められました。しかし、検査直後に所有者が変わり、船首に甲板、船尾に展望台を増設するなど大幅な改造が加えられましたが、届け出は行われませんでした。この違法な改造が、事故の一因になったと考えられています。

関連事故

この事故は、1954年に発生した洞爺丸事故と並び、当時の読売新聞十大ニュースにも選ばれました。また、琵琶湖遭難事故、和歌山中学漕艇部遭難事故、学習院大学ヨット遭難事故、神竜湖遊覧船沈没事故など、過去に発生した類似の事故も、この事故の教訓として再認識すべきでしょう。さらに、近年発生したセウォル号沈没事故も、過積載や安全管理の重要性を改めて訴えかける事故と言えます。

内郷丸遭難事件は、二度と繰り返してはならない悲劇です。この事故を風化させることなく、安全管理の徹底と法規順守の重要性を後世に語り継いでいく必要があります。

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