冥銭

冥銭（めいせん）とは、故人があの世で困らないように、あるいは三途の川の渡し賃として、死者と共に埋葬や火葬される金銭、または金銭を模した副葬品のことです。この風習は、死後の世界でもお金が必要であるという観念に基づいています。ヨーロッパでは、硬貨を死者のまぶたや体に置き、あの世への通行料とする風習も見られます。

アジア圏における冥銭

中国、韓国、ベトナム、琉球など、道教や仏教の影響を受けた地域では、紙幣を模した冥銭（紙銭）が用いられます。古代には、紙幣が一般的でなかったため、土で硬貨を模造した泥銭が副葬されることもありました。これらの冥銭は、祖霊信仰の一環として、墓前で焚かれたり、お盆の時期に祖霊への供物として家の軒先で焚かれたりします。沖縄県では、カビジン（紙銭）あるいはウチカビ（打ち紙）と呼ばれる、黄色い紙に銭形を押したものが一般的に使われます。

これらの冥銭の額面は、それぞれの国の通貨単位が使われることが多いですが、中には米ドルを意識した「冥通銀行」券も見られます。実際の貨幣や紙幣とは異なるデザインですが、これを焚くことで、祖先は死後の世界で使える通貨を手に入れると信じられています。額面も様々で、通常の通貨にはない大きな数字が記されていることもあります。これは、死後の世界がインフレであるという意味ではなく、祖先を偲ぶ気持ちの表れとされています。冥銭は束（札束）の形でも販売されています。また、西遊記には、紙銭を頻繁に焚いていた老人が、あの世で資産家になったという描写があります。

日本における冥銭

日本では、三途の川の渡河料金として六文が冥銭とされることが多いです。かつては実際の貨幣が使われていましたが、「文」という貨幣単位がなくなったこと、貨幣を意図的に破損すると罰せられること、火葬における副葬品制限で炉内に金属を入れることが禁じられるようになったことなどから、近年では六文銭を模して印刷した紙のものが使用されるようになりました。

死者は、遺族が用意した紙製の冥銭を米や塩と共に小さな布製の袋に入れ、それを懐に入れた状態で棺に納められます。この思想は、貨幣経済の発達に伴い、死後の世界でも貨幣が必要であるという価値観念に基づくものです。仏教では、現世と死後の世界の境界にある三途の川の渡し賃が最後に金銭を使う場であり、それ以降には必要ないとされています。これは現世から仏の世界へ移行する通過儀礼的な意味合いを持つと考えられます。

また、六文銭は真田氏や海野氏などの家紋にも用いられています。

冥銭は、単なるお金ではなく、故人を偲び、あの世での幸福を願う、深い意味を持つ副葬品と言えるでしょう。その背景にある宗教観や文化を理解することで、より深くその意味を感じ取ることができます。

関連項目

死者のためのコイン
葬式
三途川 - 渡河料金として六文を支払うとされる現世と来世を分ける川。
カローン - ギリシャ神話における現世と来世を分ける川の渡し守。
銭紋 - 一種に冥銭の六文銭を意識した家紋がある。
厭勝銭

外部リンク

* 燃やすためのお金「冥幣」鑑賞会、デイリーポータルZ、2021年11月10日

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