凍える鏡

映画『凍える鏡』：心の傷と再生の物語

2008年に公開された日本映画『凍える鏡』は、邦画としては初めて自己愛性パーソナリティ障害を本格的に扱った作品として注目を集めました。精神科医の監修の下、繊細な心理描写で心の闇と再生、そして家族の複雑な愛憎を描いたヒューマンドラマです。

主人公は、東京の路上で自作の絵を売る若き画家、岡野瞬。彼は純粋な心を持ちながらも、激しい怒りを制御できず、周囲と衝突を繰り返す不安定な青年です。そんな瞬は、信州の山荘で暮らす老童話作家、矢崎香澄と出会います。講演会で上京した香澄は、街角で瞬の絵に心を奪われ、2人は不思議な縁で結ばれていきます。

やがて、香澄の親友の部屋の片付けを手伝うなど、親子以上に年の離れた2人の間には深い絆が芽生えます。しかし、瞬の不安定な精神状態を心配した香澄は、臨床心理士である一人娘の由里子に瞬の治療を依頼します。

由里子によるカウンセリングの中で、瞬の心の奥底に潜む問題が明らかになっていきます。彼は幼児期に母親から虐待を受けていた過去を持ち、そのトラウマが彼の不安定な人格形成に深く関わっていたのです。カウンセリングを通して、瞬は少しずつ心の平穏を取り戻していきますが、同時に由里子に惹かれていく複雑な感情を抱くようになります。

一方、由里子自身も母親である香澄との間に満たされない感情を抱えており、彼女自身の心の葛藤も物語を複雑に彩ります。瞬と由里子、そして香澄という3人の複雑な人間関係が、それぞれの心の傷と向き合い、再生していく過程が丁寧に描かれています。

本作は、田中圭にとって初めての主演映画であり、渡辺美佐子にとって100本目の出演作品という記念碑的な作品でもあります。豪華キャスト陣と、大嶋拓監督による繊細な演出が相まって、観る者の心を深く揺さぶる作品となっています。

2009年にはDVDがリリースされ、現在ではAmazon Prime Video、FOD、GYAO!などのVODサービスでも配信されており、改めて本作の世界に触れることができます。自己愛性パーソナリティ障害について理解を深めるきっかけとなるだけでなく、人間の心の複雑さや家族の愛憎、そして再生への希望を描いた、感動作としておすすめです。

主なキャスト

岡野瞬：田中圭
矢崎由里子：冨樫真
矢崎香澄：渡辺美佐子
その他：増沢望、川口節子、菊池隆則、下條アトム（友情出演）など

スタッフ

監督・脚本・編集：大嶋拓
プロデューサー：露木栄司、内山亮
医事監修：熊谷一郎

関連情報

映画『凍える鏡』公式サイト
映画『凍える鏡』製作日記
2008年3月号『シナリオ』誌に本作のシナリオ全文が掲載

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