出歯亀

出歯亀とは何か

出歯亀（でばがめまたはでばかめ）は、日本の明治時代に起きた殺人事件に由来する言葉です。この言葉は、当時の事件の犯人のあだ名から派生し、後に窃視行為や好色な男性を指す意味でも使われるようになりました。特に、深夜に女性の入浴を覗く「覗き趣味」を持つ者や、行為が病的に進んだ「窃視症」のような状態の人々に対しても用いられます。

歴史的背景

1908年3月22日、大久保村（現在の東京都新宿区）で発生した残忍な殺人事件が契機となります。この事件では、下谷電話交換局長の妻、エン子が手ぬぐいで口を塞がれた状態で発見されました。犯人として逮捕されたのは、池田亀太郎という35歳の植木職人で、彼は過去に女湯を覗いていたことが知られていました。

池田は公判では一度自白しましたが、調査過程での自白強要を主張し、後に否認に転じました。結果として無期懲役の判決が下されましたが、後に控訴し、最終的には13年間服役しました。この事件は大きな注目を集め、池田のあだ名である「出歯亀」という言葉は広まりました。

語源と意味の変化

「出歯亀」という言葉の正確な由来は不明ですが、当時の報道において池田の性格や身体的特徴（出っ歯）に関する説が取り上げられました。初期の使われ方では、色情狂や変態的な窃視、不適切な行為を指すだけでなく、強姦・性的暴力などを含む言葉としても用いられていました。時が経つにつれ、より広範な変態的行為を指す言葉となり、社会の規範に対抗した行動を表す隠喩としても使われるようになりました。

文化への影響

「出歯亀」は流行語となり、様々な形で日本の文化や文学に影響を与えました。文豪の森鷗外は小説『ヰタ・セクスアリス』の中で、「出歯亀主義」という表現を用い、当時の自然主義文学を揶揄しました。この言葉は、真実暴露という名目で行われた性的描写への批判を含んでいました。また、新たな動詞「出歯る」も生まれ、こちらは変態行为や婦女暴行を指す意味でも使われるようになりました。

さらに、世間で怪しい行動があれば「出歯る」という表現が冗談交じりで使われることもあり、言葉の意味が広がっていきました。このように、出歯亀という言葉は単なるあだ名から、人々の行動や社会現象を反映した多様な意味を持つ言葉へと進化していったのです。

まとめ

出歯亀という言葉は、その起源が残忍な事件に端を発し、時代とともに意味を変えてきました。今日では、あまり若い世代に浸透していないものの、完全には忘れ去られたわけではありません。出歯亀の語源を知ることは、明治時代の社会の在り方や文化を理解する一助となるでしょう。

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