出隆

出隆：哲学者としての生涯と複雑な思想

出隆（1892年-1980年）は、20世紀日本の知性史において特筆すべき存在感を放つ哲学者である。岡山県津山市に生まれ、東京帝国大学で哲学を学び、日本大学、法政大学、東洋大学などで教鞭を執った後、東京帝国大学教授に昇任。西洋哲学史を専門とし、アリストテレス研究で特に知られる。

初期の経歴と学問的活動

出は、幼少期を津山市で過ごし、津山中学校を経て第六高等学校、東京帝国大学へと進学。大学院では副手を務め、早くから哲学研究に没頭した。1920年代には複数の大学で教鞭をとり、1922年刊行の『哲学以前』は、当時の哲学青年たちにとって必読書となった。1925年から2年間はイギリスとドイツに留学し、西洋哲学の深い理解を深めた。1935年には東京帝国大学教授に就任、西洋哲学史の講義を担当した。1937年には「ギリシア人ノ霊魂観ト人間学」という論文で文学博士号を取得している。

戦時中と戦後の思想的転換

戦時中は、複雑な立場をとった。1941年には雑誌『改造』に「阿呆陀羅経」を発表、軍国主義的なスローガンへの批判とも取れる文章を掲載。一方で、1944年の著書『詩人哲学者』の序文では「美しく死んでくれたまえ」と学生に呼びかけるなど、矛盾した言動も見られる。戦後、出は1948年に日本共産党に入党する。これは当時、多くの知識人が共産党に傾倒した時代背景と無関係ではない。しかし、1964年には日本共産党を除名されることになる。出自身は共産党入党の理由を、「ナチス・ドイツの世界観も八紘一宇の世界観もなんだかいやだという『自由主義者』であった」ことにあると述べている。この発言は、彼の複雑な思想と、時代へのアンビバレンスを如実に示していると言える。

アリストテレス研究と多様な著作活動

出の研究活動はアリストテレスに深く傾倒しており、『ギリシヤの哲学と政治』、『アリストテレス哲学入門』など、多くのアリストテレス関連の著作を残した。さらに、イギリス哲学や詩に関する著作、『英国の曲線』、『詩人哲学者』なども発表。多岐にわたる関心と幅広い知識を背景に、実に多様な著作を執筆した。晩年には『出隆著作集』全8巻が刊行され、その業績の集大成となっている。また、アリストテレス全集の監訳にも携わっている。

弟子たちと人物評

出の門下生には、東京大学名誉[[教授]]今道友信、一橋大学名誉[[教授]]岩崎允胤、読売新聞グループ本社代表取締役会長渡邉恒雄など、各界で活躍する著名人が名を連ねる。また、同郷の随筆家内田百閒とは親交があり、内田の作品にも出をモデルにした人物が登場する。一方、哲学者安岡正篤からは「意気地のない見栄坊」と評されており、複雑な人間性の一端が垣間見える。

まとめ

出隆は、戦前・戦後を通じて激動の時代を生きた哲学者であった。彼の思想は一貫したものとは言えず、常に時代と対峙しながら、揺れ動く知的な探求を続けた。アリストテレス研究を中心とした学問的業績、そして戦時中の複雑な言動、共産党入党と除名劇など、彼の生涯は、20世紀日本の知性史の一断面を鮮やかに映し出す鏡と言えるだろう。彼の著作は、現代においても多くの示唆を与え続け、再評価を待っていると言えるだろう。

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