刈干切唄

宮崎県の北部に位置する高千穂地方に古くから伝わる民謡に、「刈干切唄」（かりぼしきりうた）があります。この歌は、主に宮崎県西臼杵郡高千穂町で、長年にわたり歌い継がれてきた労働歌です。

「刈り干し」とは、歌の題材となっている作業を指し、山や荒れ地に生えるカヤなどの植物を刈り取ることを意味します。伝統的に、刈り取ったカヤは家の屋根を葺く材料にしたり、田畑の肥料として活用されてきました。このような厳しい自然環境での労働の中で、歌が生まれ、労働の疲れを癒し、作業のリズムを生み出す役割を果たしていたと考えられます。

「刈干切唄」の旋律には、主に二つの系統が存在します。一つは、半音を含まない素朴な五音音階を用いる陽旋法、通称「田舎節」と呼ばれるものです。もう一つは、日本の伝統音楽で広く用いられ、より都会的な響きを持つ陰旋法、通称「都節」と呼ばれる音階です。このうち、高千穂地方で地元の人々によって歌い継がれているのは、主に陽旋法によるものが多いようです。しかし、全国的に知られる「刈干切唄」として歌われる際には、陰旋法が用いられることが一般的です。

歌い方にも明確な特徴があります。他の一般的な民謡と比較して、「小節」（こぶし）を多用するのが一般的です。また、楽譜上の決まった調子に厳密に従うというよりは、歌い手の感情や解釈を反映させて、より自由に、情感豊かに歌われる傾向があります。これは、労働歌として、その場の雰囲気や歌い手の呼吸に合わせて自然に変化していった名残りかもしれません。

歌詞は通常三番か四番まであり、地域や伝承によって若干の異同が見られますが、一番の歌詞は広く共通しています。二番以降の歌詞には、地方独特の表現や古い言葉が含まれることもあり、中には現代の言葉では理解しにくい表現もあります。

例えば、「迫々（さこさこ）かげるヨ」というフレーズは、「谷々で太陽の光が陰ってきた」という情景を描写しています。「駒よ、いぬるぞ」は、一緒に作業していた馬に「馬よ、帰るぞ」と呼びかけている様子を示しています。また、「千木」（ちぎ）とは、神社の屋根に見られる、棟の上に組まれたX字形の部材を指す言葉です。これらの言葉からも、歌が生まれた土地の自然や生活、信仰との繋がりがうかがえます。

この「刈干切唄」の伝統を保存・継承するため、毎年10月の第一土曜日と日曜日には、高千穂町の国見ヶ丘を会場として、「正調刈干切唄全国大会」が盛大に開催されています。全国から歌い手たちが集まり、その技を競い合います。

また、「刈干切唄」は、三橋美智也をはじめとする著名な歌手によってカバーされ、全国に紹介されてきました。労働の中から生まれた素朴ながらも力強いこの歌は、今も多くの人々に歌われ、そして聴かれ続けています。

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