刑事長

『刑事長』は、推理作家・姉小路祐が生んだ同名の人気推理小説シリーズと、それを原作として制作されたテレビドラマシリーズの両方を指す言葉です。タイトルにもなっている「刑事長（でかちょう）」は、主人公であるベテラン刑事の通称として使われます。

原作の小説シリーズは、1992年から1994年にかけて講談社ノベルスより発表され、その後講談社文庫として文庫版も刊行されました。シリーズは『刑事長』、『刑事長 四の告発』、『刑事長 越権捜査』、『刑事長 殉職』の全四巻で完結しています。

この小説シリーズを基にしたテレビドラマは、テレビ東京とBSジャパンの共同制作により、人気サスペンス枠「水曜ミステリー9」で放送されました。2013年に第1作が、2014年に第2作が制作され、全2回のシリーズとして展開しました。主演は、主人公の岩切鍛治役を中村雅俊が、その相棒となる新米刑事・川喜多良一役を石黒英雄が務めています。

物語の中心人物である岩切鍛治（中村雅俊）は、警視庁捜査一課に所属する巡査部長。いわゆるノンキャリアの叩き上げで、その豊富な現場経験と鋭い直感、そして単独で行動することを厭わない捜査スタイルで数々の難事件を解決してきました。その功績は目覚ましく、警視総監賞を8回、刑事部長賞を5回も受賞しているという異例の経歴の持ち主です。周囲からはその実績と存在感から、「デカ長」と呼ばれ畏敬と親愛を込めて接されています。彼の部下である川喜多良一（石黒英雄）は、岩切とは対照的な若い新米刑事。捜査現場では緊張からトイレが近くなるという人間的な弱さも見せますが、岩切と共に事件解決に奔走します。原作小説の最終巻『殉職』では、川喜多が命を落とすという衝撃的な結末が描かれています。

捜査一課には、似顔絵捜査が得意な女性刑事・鳥居理香（加藤夏希）や、岩切の直属の上司でありながら、警察学校時代の先輩である岩切に憧れを抱く警部の矢敷信夫（川﨑麻世）といった同僚たちが登場し、岩切を取り巻く警察内の人間模様も描かれます。

ドラマでは、岩切鍛治の私生活や家族関係も重要な要素となっています。彼の家族は、東京大学を卒業後、検察庁に入庁したエリート検察官の息子・康司（鳥羽潤）と、現在は鍛治と二人暮らしで、母親の実家である小料理店の手伝いをしている娘の小百合（黒川智花）です。岩切の妻であり、康司と小百合の母親である由紀子（小林綾子）は、康司が幼い頃にひき逃げ事故で命を落としています。この悲劇は、康司が警察という組織を嫌うきっかけとなり、それが原因で康司は鍛治と絶縁状態になっており、親子間の深い溝がドラマの人間ドラマパートとして描かれています。由紀子の母、すなわち岩切の義母である安永ふみ（淡路恵子／水野久美）は、小料理店「ふみ」を営んでおり、小百合もそこで手伝いをしています。

テレビドラマ版では、第1作「現場一筋の男が挑む血の迷宮殺人トリック 疑惑写真密売に巨悪の影！執念の逆転捜査」（2013年4月10日放送）と、第2作「退職覚悟の越権捜査VSエリート銀行マンの宣戦布告！雷雨の夜…遺体が2度骨折？完全犯罪崩す1枚の写真」（2014年放送）が制作されました。脚本は田中江里夏が担当し、金佑彦が監督を務めるなど、スタッフ陣もベテランと若手が組んでシリーズを支えました。各回で発生する複雑な殺人事件の謎を、叩き上げの「デカ長」がその経験と洞察力、そして情熱を持って解決していく姿が描かれるとともに、家族との関係や自身の立場といった葛藤も丁寧に描写されており、骨太な刑事ドラマとして視聴者に支持されました。

もう一度検索