初午

初午：豊作祈願と稲荷信仰が織りなす伝統行事

初午とは、2月の最初の午（うま）の日に、全国各地の稲荷神社で行われる祭りのことです。古くは旧暦2月の最初の午の日に行われていましたが、明治政府による新暦の採用後は、新暦2月の最初の午の日に行われることが一般的になりました。ただし、現在でも旧暦の日に初午を祝う地域もあり、その場合は新暦では3月になることもあります。

初午の起源は、稲荷神社のご祭神である宇迦御霊神が伊奈利山に降り立った日とされている和銅4年2月7日（711年2月28日）に由来します。この日が初午であったことから、全国各地で稲荷神社の祭日として定着したと考えられています。

初午の行事の中心は、その年の豊作を祈願することです。この豊作祈願という農業社会の根幹をなす信仰に、稲荷信仰が結びつくことで、初午は全国に広まりました。

初午には様々な風習があります。古くから伝わる習慣としては、蚕や牛馬の祭日とする風習があり、江戸時代には、子供が寺子屋へ入門する日とされていたという記録も残っています。また、初午の時期は、地域によっては節分（2月3日）前後の期間に及ぶ場合もあります。2月2回目の午の日は「二の午」、3回目は「三の午」と呼ばれ、これらの日にも祭礼を行う地域もあります。

初午に関する俗信もいくつか存在します。例えば、「4月初めの巳の日の菜の花祭りの夜と初午のいずれかに雨が降らないと火に祟られる」とか、「初午の早い年は火事が多い」といった言い伝えです。そのためか、初午の日に消防団員が各家庭を回って火の用心を呼びかけ、火の用心のお札を配る習慣がある地域もあるそうです。

初午の祭事の内容は地域によって多様性に富んでいます。富山県南砺市利賀村では、「利賀のはつうま」という独特の行事があります。子供たちが藁で作った馬の頭をもち、家々を回って囃し歌に合わせて舞を披露し、各家庭からお菓子などのご祝儀をもらう風習です。この「利賀のはつうま」は、国の選択無形民俗文化財および富山県の無形民俗文化財に指定されています。

また、奈良県では「旗飴（はたあめ）」という風習があり、子供たちが近所の家を訪ねて旗飴をもらう習慣があります。栃木県ではしもつかれを食べる風習があり、油揚げや稲荷寿司、初午だんごなどを供える地域もあります。全日本いなり寿司協会によって2月11日が「初午いなりの日」として登録されていることも興味深い点です。

初午は、単なる祭日ではなく、地域社会の結束を深め、伝統文化を継承する重要な行事です。それぞれの地域で受け継がれてきた独特の風習や、豊作祈願という願いが込められた初午は、日本文化の奥深さを私たちに伝えてくれています。現代社会においても、初午の伝統行事が大切に守られ、未来へと継承されていくことを願ってやみません。

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