判事懲戒法

判事懲戒法の概説

判事懲戒法（はんじちょうかいほう）は、明治23年8月21日に法律第68号として制定され、日本における裁判官の懲戒手続きを定義した法令です。この法律は1890年11月1日に施行され、1947年に新たに制定された裁判所法により廃止されるまで、裁判官の職務に関する懲戒を取り扱っていました。

沿革

判事懲戒法は、裁判官の行為が職務に反する場合、すなわち職務上の義務を怠ったり、職務にそぐわない行いをした場合に適用されるものでした。懲戒は、大審院または控訴院が設置した懲戒裁判所において行われ、この裁判所は懲戒責任を質す役割を果たしました。

懲戒対象の行為には、職務上の義務違反や職務怠慢、裁判官としての威厳を損なう行為が含まれていました。具体的な懲罰は、以下の4種類が規定されていました。

1. けん責：警告や注意を行う程度の懲戒。
2. 減俸：年俸の月割額を最大3分の1減じられる場合があり、1か月から1年間に渡ることがありました。
3. 転所：他の裁判所または職務へ異動させられること。
4. 免職：最も重い処分で、判事としての地位を失い、恩給をも剥奪されます。

1893年から1944年の間に、判事懲戒法に基づく懲戒は40件以上に達し、その詳細は官報で報告されました。1913年には一部改正が行われ、懲戒裁判所の構成メンバーが見直されるなど、法令は時代に合わせて変化しました。1947年には裁判所法が施行されると同時に、判事懲戒法もその対象から外れることとなりました。

構成

判事懲戒法は全57条から構成され、以下の章立てがなされています。

1. 総則：基本的な規定。
2. 懲罰：具体的な懲戒の種類。
3. 懲戒裁判所：懲戒を実施するための裁判所の設置について。
4. 裁判手続：懲戒に関する裁判手続の詳細。
5. 職務停止：職務執行停止についての規定。
6. 懲戒裁判手続と刑事裁判手続との関係：二つの手続の関係を示す。
7. 補則：その他の補足的な規定。

判決例

判事懲戒法に基づく具体的な判決例として、以下のようなケースが存在します。

• - 函館地方裁判所所長の手塚吉康に対しては、1908年12月14日に1か月の減俸が言い渡されています。
• - 新潟地方裁判所所長の松野篤義には、1909年1月23日に2か月の減俸が科されました。
• - また、大審院においては、法学博士の井上正一を含む6名の判事が1912年5月21日にけん責の判決を受けています。

成立までの背景

1888年の帝国議会設置に伴う法整備が進む中、井上毅がイギリスの懲戒理論を基に、日本における懲戒裁判所の設置を提言しました。この懲戒裁判所は内閣によって運営されることが考えられていましたが、最終的に本法では裁判所内に設けられる形となりました。

井上は、イギリスからの法制顧問、フランシス・テイラー・ピゴットとも相談した結果、日本独自の懲戒制度を調整していくことになりました。その結果、今の法律へと繋がっていったわけです。

判事懲戒法は、日本の司法制度において非常に重要な役割を果たし、裁判官の職務におけるコンプライアンスを確保するための基盤を提供しました。

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