利-18号事件

利-18号事件は、1981年（昭和56年）から1982年（昭和57年）にかけて日本の関西地方で発生した、五千円紙幣の大量偽造および行使事件を指す。この事件は、当時の日本の通貨偽造事件において、発見された偽造紙幣の規模として前例のないものとなった。

事件は1981年12月、兵庫県尼崎市内の園田競馬場で偽造された五千円札が見つかったことから表面化した。その後、1982年2月頃にかけて、大阪市を中心に、茨木市、東大阪市、芦屋市、京都市といった関西各地の広い範囲で、タバコ販売店、喫茶店、パチンコ店など、様々な場所で同様の偽造五千円札が次々と発見される状況となった。偽札の流通が拡大するにつれて、捜査当局は警戒を強めた。

捜査が大きく進展する契機となったのは、1982年9月6日に大分県大分市の市営不燃物投棄場で、大量の偽造五千円札が発見されたことである。投棄されていたのは、約20万枚の偽造紙幣が詰められた大型の麻袋34袋であり、その量は膨大であった。通常であれば見過ごされてしまう可能性もあったこの大量投棄が発覚したのは、大分市の清掃担当職員が、その真新しい麻袋と尋常ではない中身の量に気づき、袋の再利用を考えたことから、内部を確認するという特別な経緯があったためである。この発見は、事件の全容解明に向けた重要な突破口となった。

大分県警察は、この大量の偽造紙幣を投棄した人物を、大分市内に住む当時18歳の少年と特定した。その少年の周辺を捜査する過程で、大分市で印刷会社を経営していた40代の男Aの存在が、事件への関与が疑われる人物として浮上した。Aの自宅兼事務所に対する家宅捜索では、破棄された状態の偽造五千円札や、その製造に使用されたとみられる痕跡が発見された。これを受けて、警察はAが事件に関与していると判断し、逮捕状を請求。Aは全国に指名手配された。その後の捜査により、9月12日から13日にかけて、主犯格とみられるAに加え、先述の18歳少年、Aの知人である男B、そしてAの元従業員である男Cの合計4名が逮捕された。

最終的に、検察はA、B、C、そしてAの前妻である女Dの合計4名を、通貨偽造罪や偽造通貨行使罪などの罪で起訴した（Dは在宅起訴）。検察は、完成品および未完成品を含め、総額で10億円に上る偽造紙幣が製造されたと推計したが、起訴状では完成品の偽造紙幣として、7万6406枚、金額にして3億8230万円分が認定された。また、主犯格とされるAは、猟銃を不法に改造した容疑で、銃刀法違反や火薬類取締法違反という別の罪でも追起訴された。

この事件で製造・発見された偽造紙幣の枚数と金額は、当時の日本の紙幣偽造事件としては過去最高を記録したものであった。しかし、その一方で、犯人グループが偽造紙幣の製造や行使に要した費用は、材料費などでおよそ60万円、関西での偽造紙幣使用に関連する交通費が約13万円と、合計してもわずか73万円程度であった。そして、偽造紙幣を使用して物品を購入する際に得られた釣り銭などの実際の利益は、わずかに10万円強に過ぎなかったとされている。主犯格のAが、一万円札ではなく五千円札を偽造の対象に選んだ理由としては、一万円札が表面に10色、裏面に5色の印刷を要するのに対し、五千円札は表面が9色、裏面が5色であるため、印刷技術的な難易度が比較的低かったためであったと供述されている。

裁判は継続され、1983年11月28日、大分地方裁判所にて判決が言い渡された。主犯格であるAには懲役10年（求刑：懲役15年）、共犯とされたBには懲役4年（求刑：懲役7年）の判決がそれぞれ言い渡された。また、元従業員のCには懲役2年執行猶予3年（求刑：懲役3年）が、Aの前妻であるDには懲役3年執行猶予4年（求刑：懲役4年）の判決がそれぞれ言い渡された。

この事件は、日本における偽札事件の歴史において、その規模の大きさから特筆されるべき事件の一つとなっている。

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