前奏曲ト短調 (ラフマニノフ)

ラフマニノフ 前奏曲 ト短調 作品23の5

セルゲイ・ラフマニノフが作曲した『10の前奏曲』作品23（1903年完成）に収録されているピアノ独奏曲の一つで、1901年に作曲されました。濃厚なロシアの民族的情緒に溢れており、今日においても演奏される機会が多い楽曲です。ラフマニノフの卓越した技巧と、作曲家としての非凡な才能を象徴する傑作として知られています。

楽曲構成

この楽曲は、以下の構成で展開されます。

Alla Marcia
Poco Meno Mosso
* Tempo I (Alla Marcia)

作品は「Alla Marcia（行進曲風に）」の指示に従い、力強い行進曲を思わせるテンポで幕を開けます。同じリズムを刻み続けながら、徐々にその雄々しさを増していき、やがて最初の主題へと回帰します。

「Poco Meno Mosso」の部分に入ると、雰囲気が一変します。右手は重厚な和音やオクターブを奏で、左手は壮大なアルペジオのような動きを見せ、テンポは穏やかになり、美しく歌い上げるような曲想へと発展していきます。その後、最初のテンポに戻るための推移部を経て、再び勇壮な和音を刻む再現部へと移行します。

最後は、フォルティッシモ（非常に強く）の和音が連続するコーダ（終結部）を経て、ピアニッシモ（非常に弱く）による特徴的なトッカータ風の走句で静かに幕を閉じます。

技術的な難易度

ラフマニノフの作品全般に共通して言えることですが、この楽曲もまた、演奏には高度な技術が要求されます。特に、大きな和音や広大なアルペジオ、そして急速なオクターブ連打は、手の小さいピアニストにとっては大きな障壁となりえます。また、楽譜に指示された繊細な強弱の変化を表現することも、演奏をより困難なものにしています。

この作品は、ラフマニノフの作品の中でも特に難易度が高い部類に入ると同時に、彼の最も有名な作品の一つとして広く知られています。

録音について

この楽曲は、作曲者であるラフマニノフ自身による録音が残されています。しかし、この作品は「柔軟な音楽性」を持つため、作曲者自身の解釈とは大きく異なるスタイルで演奏されることも珍しくありません。

エミール・ギレリスが第二次世界大戦の戦線でこの前奏曲を演奏し、ソヴィエト連邦軍を支援した際の映像が現存しています。当時のナレーターは、ギレリスの演奏について、

"ギレリスの戦線での演奏は、私達にこの戦争の意味を教えてくれる。不滅の音楽だ!"

とロシア語で語っています。

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