前奏曲集 (メシアン)

オリヴィエ・メシアンの前奏曲集：初期作品の魅力

オリヴィエ・メシアンが1928年から1929年にかけて作曲したピアノ曲集『前奏曲集』(Préludes)は、彼の作品番号1として位置づけられる重要な初期作品です。全8曲からなるこの作品は、約35分の演奏時間を持つ、聴き応えのあるピアノ曲集となっています。フランス語では『8つの前奏曲』(Huit préludes)とも呼ばれています。

作曲の背景と初演

メシアンは、パリ音楽院でポール・デュカスに師事していた当時、夏休みを利用してオーブ県フュリニーにある叔母の家でこの作品を完成させました。1930年1月28日には、メシアン自身による非公開の初演が行われ、同年3月1日にはパリのサル・エラールにて、国民音楽協会の演奏会でアンリエット・ピュイグ＝ロジェによって公開初演されました。この演奏会では、全8曲のうち「鳩」と「静かな嘆き」を除く6曲が演奏されました。全曲を通しての公開演奏は、それから7年後の1937年6月15日に実現しています。楽譜は1930年6月にデュラン社から出版されましたが、初版には多くの誤りがあったため、1945年に大幅な修正が加えられています。また、1947年にはイヴォンヌ・ロリオによる3曲の抜粋がSPレコードとして発売されました。日本では、1952年の実験工房第2回発表会において、園田高弘のピアノ演奏によって初演されました。

音楽的特徴：ドビュッシーの影響とメシアンらしさ

『前奏曲集』全体としては、クロード・ドビュッシーの影響を強く受けていることが特徴的です。メシアン後期の作品に見られる、伸縮するリズムや独特のリズム体系はまだ用いられていません。しかし、メシアン独特の音楽的要素も垣間見ることができます。例えば、八音音階（後にメシアン自身が「移調の限られた旋法第2番」と名付けた）の使用や、「移調の限られた旋法第3番」と「第6番」に基づく和音などが用いられています。第1曲の最後に現れる非常に高い音は、主旋律に対して2オクターブに半音足りない高さで重ねられており、独特の響きを生み出しています。特に第6曲は、後のメシアンの音楽に通じる要素が色濃く表れており、注目に値します。メシアン自身は、ドビュッシーの前奏曲との違いとして、ソナタ形式のような伝統的な形式を採用している点を挙げています。特に最終曲は、典型的なソナタ形式で、調の異なる2つの主題を持つ提示部、展開部、再現部、コーダから構成されています。

各曲の構成と色彩

『前奏曲集』は、以下の8曲で構成されています。第2曲と第6曲が比較的長く、第1、3、7曲は短い楽曲となっています。メシアンは、1944年の著作『わが音楽語法』において、各曲に特定の色を対応させています。

1. 鳩 (La colombe)
2. 悲しい風景のなかの恍惚の歌 (Chant d'extase dans un paysage triste)
3. 軽やかな数 (Le nombre léger)
4. 過ぎ去った時 (Instants défunts)
5. 夢の触れられない音… (Les sons impalpables du rêve…)
6. 苦悶の鐘と別れの涙 (Cloches d'angloisses et larmes d'adieu)
7. 静かな嘆き (Plainte calme)
8. 風に映る影… (Un reflet dans le vent…)

まとめ

『前奏曲集』は、メシアンの初期作品でありながら、彼の才能を十分に感じ取ることができる重要な作品です。ドビュッシーの影響を受けつつ、独自の旋法や和音の使用、そして後の作品につながる音楽的要素が見られる点で、メシアンの作品を理解する上で欠かせない一枚となっています。

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