アンリエット・ピュイグ=ロジェ:多才な音楽家の生涯
アンリエット・ピュイグ=ロジェ(Henriette Puig-Roget,
1910年1月9日 -
1992年11月24日)は、
フランスの
コルシカ島に生まれ、
ピアノ、
オルガン、作曲、教育の分野で傑出した才能を発揮した音楽家です。彼女の音楽人生は、
パリ音楽院での輝かしい学びから始まり、
フランス国内での演奏活動、そして日本での教育活動へと広がっていきました。
パリ音楽院での研鑽
1910年、アンリエットは軍人の父と母の間に生まれました。幼少期から音楽に親しみ、
1915年には
パリで
ピアノとソルフェージュの学習を開始。
1919年には
パリ音楽院に入学し、
1926年に
ピアノ科で1等賞を獲得しました。その後も、
和声、
音楽史、
ピアノ伴奏、
対位法、
フーガ、
オルガンなど、多岐にわたる分野で1等賞を受賞。シャルル・トゥルヌミールにも師事し、室内楽の知識を深めました。
1931年には、サン・クロティルド教会でトゥルヌミールの補助
オルガニストを務めました。
1933年と
1934年には、ローマ大賞で2等賞第1席に選ばれますが、
1934年の選考では、一部審査員の意向により、男性
作曲家が大賞を受賞するという不運に見舞われました。しかし、その才能は疑いなく、同年に
パリ音楽院を修了しました。
1934年、ピュイグ=ロジェは
パリの大シナゴーグとルーヴル・オラトリオ修道会の
オルガニストに就任。
1936年からは、
フランス放送協会の
ピアニスト、
オルガニスト、プログラム詮衝委員会の初見視奏者としても活躍しました。また、
パリ・オペラ座ではシェフ・ド・シャンとして歌手をサポートしました。
1940年、第二次世界大戦を避けてマルセイユに移住し、建築家のラモン・ピュイグ=ヴィニャルスと結婚。以降、アンリエット・ピュイグ=ロジェとして活動しました。
1944年に
パリに戻り、放送局の仕事と並行して、音楽批評家としても活動。
1957年には
パリ・オペラ座を辞任し、
パリ音楽院
ピアノ伴奏科の教授に就任し、多くの弟子を育成しました。
彼女はソリストとしても活躍し、
フランス国立放送管弦楽団やコロンヌ管弦楽団など、様々なオーケストラと共演。
マルカントワーヌ・シャルパンティエやリュリなどのバロック音楽から、サン=サーンス、フォーレ、ドビュッシーなどの近現代音楽まで、幅広いレパートリーを持っていました。
日本での教育活動
1979年、教え子の尽力により来日し、東京藝術大学で客員教授として教鞭を執りました。ソルフェージュ、声楽、
ピアノ、
オルガン、室内楽など、幅広い分野で指導を行い、その卓越した指導力は高く評価されました。当初は2~4年の予定でしたが、その優れた指導力と本人の希望により、
1991年まで異例の長期滞在となりました。
また、
桐朋学園大学、
武蔵野音楽大学、
エリザベト音楽大学、
神戸女学院大学でも非常勤講師を務め、
1990年には
桐朋学園大学名誉客員教授の称号を授与されました。教育活動の傍ら、12年間で200回以上の演奏会に出演し、室内楽や
ピアノ伴奏の舞台で活躍。ソプラノの嶺貞子や、フルートの三上明子など、多くの音楽家と共演しました。
晩年と遺産
1991年、東京藝術大学を退官し、国立音楽大学の宿舎に移りましたが、年末に転倒し、白血病が発覚。治療のため
フランスに帰国し、
1992年11月24日に
パリで亡くなりました。彼女の死後、日本と
フランスで追悼演奏会が開催され、その功績が称えられました。
パリ音楽院の366講義室には彼女の名前が冠され、彼女が寄贈した楽譜も公開されています。
2003年には、没後10年を記念した演奏会が東京藝術大学で開催され、遺稿やインタビューをまとめた書籍も出版されました。
主要な門人と作品
ピュイグ=ロジェは、ジルベール・アミ、アラン・ルヴィエ、
野平一郎など、多くの優れた音楽家を育てました。作品には、
管弦楽曲、室内楽曲、
宗教音楽、
オルガン曲などがあり、日本では子供向けの
連弾曲が出版されています。
栄誉
ピュイグ=ロジェは、日仏両国から数々の栄誉を受けています。
1982年:レジオン・ドヌール勲章(フランス)
1986年:文化庁芸術祭賞(日本)、アンドレ・マルロー文学芸術功労賞(
フランス)
1988年:モービル音楽賞(日本)
1989年:勲三等
瑞宝章(日本)
アンリエット・ピュイグ=ロジェは、その卓越した音楽的才能と教育への情熱を通じて、後世に多大な影響を与えた音楽家であり、その遺産は今もなお、多くの人々に感銘を与え続けています。