割り鹿の子

割り鹿の子（わりかのこ）

割り鹿の子とは、江戸時代の後期に広く若年層の女性たちの間で結われた、独特な意匠を持つ髪型です。別名を割唐子（わりかのこ）や姥子（うばこ）とも称され、主に十代後半から二十代前半の、多くは未婚の女性に好まれました。その特徴的な形状は、結う者の可憐さや若々しさを引き立てるものでした。

特徴

この髪型の最大の特色は、その名の通り、髷を二つに「割る」ような形にあります。まるで丸髷を中央で分けて、中に飾り布や手絡（てがら）を見せるかのように結い上げられます。また、髷の形は「銀杏返し」や「蝶々髷」を上下反転させたような構造とも形容され、独特の優雅さを持っています。特に、笄（こうがい）の下を通して髷にかけられた鹿の子絞りの布や飾り紐が、全体の印象を非常に愛らしく、可憐なものにしていました。

着用者

割り鹿の子は、その結い方や装飾から、結う者の社会的立場によっていくつかのバリエーションが見られました。例えば、丸髷を割るような豪華な結い方は、裕福な豪商の夫人など、ある程度地位のある既婚女性が結うケースもありました。しかし、本来の、そして最も一般的な着用者は、待合茶屋やその他の飲食店などで働く、若い未婚の女性たちでした。彼女たちがこの髪型をすることで、その若さや魅力を一層際立たせていたと考えられます。

結い方

割り鹿の子を結うには、複雑ながらも独特の手順を踏みます。

1. まず一本にまとめた髪の根本近くに、笄を横向きに挿し込みます。
2. 次に、その笄よりも先の髪束の中ほどを元結（もとゆい）でしっかりと括り、この括った部分から先の毛束を二つに分けます。
3. 分けられたそれぞれの毛束は、その裏表をひっくり返すような動作で、挿してある笄の上を通すように掛け回します。
4. 続いて、元結で括った部分よりさらに先の髪を再び二つに分けます。
5. この分けた毛束をそれぞれ輪のように形作り、最初に元結で括った根元に向かって交差させるように巻きつけていきます。この部分は、童女が結う「稚児髷」を作る際の要領に似ています。
6. 最後に、全体の形を整え、笄の下をくぐらせるように鹿の子絞りの布や手絡などの飾りを巻きつけて完成となります。この手絡が、髷の割れ目や結び目の部分を隠しつつ、見た目の華やかさと可憐さを加える重要な役割を果たします。

この複雑ながらも計算された結い方によって、立体感があり、正面からも側面からも美しい、若々しい女性にふさわしい魅力的な髪型が生まれるのです。

まとめ

割り鹿の子は、江戸時代後期の女性の美意識と結髪技術が生んだ、可憐で特徴的な髪型でした。その独特な形状と、鹿の子などの装飾がもたらす愛らしい印象は、当時の若い女性たちの魅力を引き立てるのに一役買っていました。時代劇などで目にすることもあり、今なおその優美な姿を知ることができます。

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