劇場 (又吉直樹)

劇場 (げきじょう)

お笑い芸人であり作家の又吉直樹による長編小説です。文芸誌『新潮』2017年4月号に発表され、同年5月に新潮社より単行本として刊行されました。原稿用紙約300枚からなる作品で、作者にとって初めての本格的な恋愛小説として注目されました。東京で表現者として成功を目指す若者の苦悩や挫折を描く青春小説としての側面も持ち合わせており、芥川賞受賞作である前作『火花』とも通じるテーマが見られます。2019年8月には新潮文庫より文庫版が刊行されています。

あらすじ

物語は、東京で売れない劇作家として活動する主人公・永田を中心に展開します。彼は自身の劇団「おろか」で脚本を手がけているものの、その活動はなかなか世間に認められません。ある日、永田は街で偶然、女優を目指して上京してきた大学生の沙希と出会います。純粋で献身的な沙希に強く惹かれた永田は、やがて彼女と恋人となり、彼女の部屋に転がり込む形で同棲生活を始めます。

生活力に乏しく、自身の芸術への信念と現実の厳しさの間で揺れ動く永田。そんな彼を、沙希は明るく献身的に支え続けます。しかし、理想と現実のギャップに苦しむ永田の抱える不安や苛立ち、そして彼を取り巻く環境は、次第に二人の関係にも微妙な影を落としていきます。夢を追いかけることの困難さ、芸術家のエゴとそれを支える側の葛藤、そして不器用ながらも深く結びついた愛の形が、切なくもリアルな筆致で描かれています。

主な登場人物

永田（ながた）: 本作の主人公。劇団「おろか」の脚本家。中学時代からの友人である野原に触発されて演劇に興味を持ち、上京後に劇団を立ち上げます。芸術家肌ですが、現実との折り合いに苦悩します。
沙希（さき）: 永田の恋人。青森から女優を目指して上京してきた大学生。服飾系の大学に通いながら、アルバイトで永田を支えます。純粋で自己犠牲的な性格です。
野原（のはら）: 永田の中学時代からの親友で、劇団「おろか」を共に立ち上げたメンバー。音楽、映画、文学、格闘技など幅広い知識を持ち、永田とは異なる視点から彼を支えます。
戸田（とだ）: 劇団「おろか」の団員。金髪で長身。打ち上げなどでは座の中心となるムードメーカー的存在です。
辻（つじ）: 劇団「おろか」の団員。坊主刈りで細身です。
青山（あおやま）: 劇団「おろか」に所属する唯一の女性団員。野原のバイト先の居酒屋の客だったのが縁で入団。後に戸田と交際します。
小峰（こみね）: 永田と同い年の劇作家・演出家。劇団「まだ死んでないよ」を主宰しており、永田にとっては意識する存在です。
田所（たどころ）: 劇団「まだ死んでないよ」の団員であり、沙希のアルバイト先の同僚です。

書誌情報

単行本: 新潮社、2017年5月11日刊行、ISBN 978-4-10-350951-6
文庫版: 新潮文庫、2019年8月28日刊行、ISBN 978-4-10-100651-2

映画化

本作は、映画監督の行定勲によって実写映画化され、2020年に公開されました。主演は永田役を山﨑賢人、沙希役を松岡茉優が務めました。当初は2020年4月17日に劇場公開が予定されていましたが、新型コロナウイルスの感染拡大に伴い公開が延期されました。その後、配給会社が変更され、同年7月17日に新たな公開日が決定しました。この公開時には、劇場のスクリーンでの上映と同時にAmazonプライム・ビデオでの全世界独占配信も行われ、日本の実写映画としては初めての試みとして大きな話題となりました。

キャスト

永田: 山﨑賢人
沙希: 松岡茉優
野原: 寛一郎
青山: 伊藤沙莉
小峰: 井口理 (King Gnu|King_Gnu)
田所: 浅香航大
その他、上川周作、大友律、三浦誠己らが出演しています。

スタッフ

原作: 又吉直樹『劇場』（新潮文庫）
監督: 行定勲
脚本: 蓬莱竜太
音楽: 曽我部恵一
製作幹事・配給: 吉本興業
制作プロダクション: ザフール
その他、撮影、照明、美術、録音、編集、スタイリスト、ヘアメイクデザイン、音響効果など、各分野の専門家が制作に参加しています。

受賞

* 第63回 ブルーリボン賞 助演女優賞（伊藤沙莉 - 青山役）を受賞しています。

もう一度検索