力価

力価（りきか）

力価とは、主に生物学や医学の分野で、ある物質や検体が持つ生物学的な濃度や活性を測定するために用いられる手法の一つです。

力価の原理

力価の測定は、試料を段階的に希釈し、それぞれの希釈段階で特定の生物学的な反応（陽性反応）が見られるかどうかを評価するという原理に基づいています。

1. 段階希釈: まず、測定したい試料を一定の比率（例えば2倍ずつ、10倍ずつなど）で連続的に薄めた系列を作製します。これにより、濃度が段階的に異なる複数の試験液が得られます。
2. 生物学的反応の評価: 次に、これらの希釈液それぞれについて、特定の生物学的応答や活性が観察されるか否かを評価します。この応答は「陽性」または「陰性」として判定されます。例えば、細胞への感染、酵素活性、抗原抗体反応などがこれにあたります。
3. 力価の決定: 作製した希釈系列の中で、まだ陽性反応が観察される最も希薄な段階（つまり、最も高い希釈倍率の状態）をもって、その試料の力価と定めます。

この「陽性を示す最も高い希釈倍率」が力価として表現されます。例えば、試料を2倍、4倍、8倍…と希釈していき、128倍希釈までは陽性反応が見られたものの、256倍希釈では陰性になった場合、力価は128倍（または1:128）と表現されることがあります。2倍希釈系列で8段階目まで陽性が見られる場合、その力価は2の8乗である256倍、すなわち1:256と示されます。これは、元の試料が陽性限界希釈液の256倍の活性を持っていると解釈できることを意味します。

力価は、単純な物理的濃度（例えばグラム/リットルなど）だけでなく、その物質が持つ生物学的な「活性」や「効力」を反映する概念です。この点で、タンパク質や酵素が持つ触媒能力を示す「比活性」と類似した考え方と言えます。

力価の主な例

力価という概念は様々な分野で応用されますが、代表的なものとして以下のような例があります。

ウイルス価（Viral Titer）

ウイルス価は、ウイルスを含む試料中に存在する、感染性のあるウイルスの量を示す指標です。これは、特定の細胞に感染を引き起こすことができる、最も希薄なウイルス溶液の濃度（または最も高い希釈倍率）として定義されます。

ウイルス価の測定も力価の原理と同様に、ウイルス溶液を段階希釈し、それぞれの希釈液を感受性のある細胞に接種して感染の有無を評価することで行われます。例えば、細胞に感染してプラーク（細胞の死滅などによる穴）を形成する数を数えるプラーク法や、細胞変性効果（CPE）が見られる限界希釈を測定する方法などがあります。ウイルス価は、測定に用いる細胞の種類や評価方法によって値が変動しうるという特徴があります。近年の分子生物学的な手法（PCRなど）ではウイルスゲノムの量を直接定量できますが、これは感染性のあるウイルス粒子数とは必ずしも一致しません。力価は、あくまで生物学的な「感染性」という活性を評価する点で、他の定量法とは異なる意味合いを持ちます。

抗体価（Antibody Titer）

抗体価は、血液などの検体中に含まれる特定の抗体の量や活性を示す指標です。これは、抗原と反応する抗体が含まれる最も希薄な検体の希釈度として表されます。感染症の診断やワクチンの効果判定などで用いられます。なお、抗体価は抗体が抗原と結合する能力自体を示す「抗体結合価」とは区別される概念です。

力価の意義

力価測定は、特に生物由来の複雑な試料において、単なる化学的な濃度測定では捉えきれない生物学的な効力や活性を評価する上で重要な手法です。ワクチンや抗血清など、生物学的製剤の効果判定にも広く用いられています。測定方法が確立されており、比較的簡便に実施できる利点がある一方で、評価系に依存して値が変わりうるという性質も理解しておく必要があります。

関連項目

比活性
ウイルス定量
* 抗体価

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