加納実紀代

加納実紀代：日本の女性史研究を牽引したパイオニア

加納実紀代（1940年7月17日 - 2019年2月22日）は、日本の女性史研究において、その発展に多大な貢献を果たした研究者です。戦時下の女性やジェンダー問題に関する研究で知られ、その業績は日本における女性史研究の礎を築いたと言えるでしょう。

激動の時代を生き抜き、女性史研究の道を歩む

加納実紀代は、現在のソウル特別市に当たる京城府で生まれました。陸軍軍人の父に連れられ転居を繰り返し、1944年には広島市に移り住みます。しかし、1945年8月6日、広島への原子爆弾投下により、父を失うという悲劇を経験します。その後は母の実家がある香川県善通寺市で育ちました。

このような幼少期の経験は、加納実紀代のその後の人生観や研究活動に大きな影響を与えたと考えられます。激動の時代を生き抜いた経験は、彼女を女性史研究へと導き、戦時下の女性たちの苦悩や強さを深く理解する土台を作ったのではないでしょうか。

京都大学文学部史学科卒業後、中央公論社に勤務したのち、研究者の道を歩み始めます。1976年には、戦時女性史の研究会「女たちの現在（いま）を問う会」を設立し、ミニコミ誌『銃後史ノート』を創刊しました。このミニコミ誌は、戦時中の女性たちの生活や経験を記録し、当時の社会状況を多角的に捉える試みとして注目を集めました。

『銃後史ノート』と女性史研究への貢献

『銃後史ノート』は、当初は手作りで200～300部程度の発行でしたが、徐々に商業出版社の協力を得て数千部へと発行部数を増やしていきました。1985年には「女たちの戦後・その原点」を特集した号が発行され、この功績により第5回山川菊栄賞を受賞しました。

『銃後史ノート』は、戦前からの女性史を網羅的に扱うことを目指し、1996年まで全18号が発行されました。20年以上にわたる長期に渡るこのプロジェクトは、日本の女性史研究に計り知れない貢献を果たしたと言えるでしょう。戦時下における女性の役割や経験を詳細に調査・分析し、それまであまり注目されていなかった視点から歴史を解明する試みは、当時の女性史研究に大きな衝撃を与えました。

新しい歴史教科書をつくる会への批判と女性たちの連帯

1990年代後半には、「新しい歴史教科書をつくる会」が結成され、歴史教科書における記述変更を巡り大きな論争が巻き起こりました。加納実紀代は、この動きに強い批判的姿勢を示し、他の女性研究者と共に「『新しい歴史教科書をつくる会』に抗議する女たちの緊急アピール」を発表しました。この声明は、歴史認識をめぐる議論において、女性の視点の重要性を訴えるとともに、歴史教育における多様な解釈の必要性を訴える重要な行動となりました。

教育者としての活動と晩年

2002年から2011年までは、新潟県新発田市にある敬和学園大学で特任教授を務め、後進の育成にも尽力しました。大学では「日本史概説」「歴史学」などの講義を担当する傍ら、「敬和学園大学　戦争とジェンダー表象研究会」を立ち上げ、研究活動を行いました。また、地元の女性史研究グループを支援するなど、地域社会への貢献にも力を入れていました。

定年退職後も、女性史・ジェンダー史の研究を続け、精力的に著作活動や講演活動を行っていました。晩年は病と闘いながらも、1980年以降の文章をまとめた『「銃後史」をあるく』を出版するなど、研究者としての活動を最後まで続けました。

加納実紀代は、78歳でこの世を去りましたが、彼女が残した多くの著作や研究活動は、日本の女性史研究、ひいては歴史研究全体に大きな影響を与え続けています。彼女の功績は、未来の研究者たちにとっても、重要な指針となるでしょう。

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