努力義務

努力義務とは

努力義務とは、日本の法律において「～するよう努めなければならない」と規定されている行為のことです。この義務は、法的拘束力を持つ「義務」とは異なり、たとえ守られなかったとしても、刑事罰や過料などの法的制裁を受けることはありません。遵守するかどうかは、当事者の自主的な理解と協力に委ねられています。また、その達成度についても、当事者の判断に委ねられるという特徴があります。

憲法におけるプログラム規定と似ていますが、プログラム規定は国家が努力すべき義務を定めており、国民に直接課せられるものではありません。努力義務は、国民に対して特定の行為を求めるものの、その強制力は限定的であるという点で、プログラム規定とは異なります。

努力義務の趣旨

努力義務規定は、主に以下のような場合に設けられます。

国民に法的義務を課すことが適切でない行為: 国民の権利を制約するおそれのある行為や、国民一般に一定の作為または不作為を命じることが適切でない場合。
急激な規制強化による混乱を避けるため: 新しい規制を導入する際に、段階的に浸透させるための緩和措置として。
小規模団体に対する配慮: 大規模団体と同等の厳格な規制を一律に適用することが適当でない場合に、小規模団体に配慮するため。

国民の権利を制約するおそれのある行為に対する努力義務規定

例えば、東京都の青少年健全育成条例では、図書や映画の内容が青少年に悪影響を与える可能性がある場合、販売・頒布・貸付をしないように努めることが、発行業者に努力義務として課せられています。もし、これを法的義務として罰則を設けると、憲法で保障されている表現の自由や刑罰法定主義に抵触する恐れがあるため、努力義務という形がとられています。

国民一般に一定の作為または不作為を命じることがなじまない場合

同じく東京都の青少年健全育成条例では、青少年が有害な映画を観ることを禁じる義務が、興行場関係者には課せられていますが、一般市民には努力義務にとどまっています。これは、一般市民にまで法的義務を課すと、義務の範囲が不明確になり、憲法で保障する刑罰規定の明確性の原則に抵触する可能性があるためです。

激変緩和措置的意味合いのある場合

過去には、男女雇用機会均等法で、募集・採用や配置・昇進における差別的取り扱いが努力義務とされていた時期がありました。これは、社会状況の変化に対応するために段階的に法改正を行った事例です。また、民事訴訟法の当事者照会も、導入当初は罰則のない努力義務とされていました。

努力義務の例

努力義務とされたもの

企業のパワーハラスメント防止対策: 2020年より、企業にはハラスメント防止対策が努力義務として課せられました。
自転車用ヘルメットの着用: 2023年より、自転車に乗るすべての年齢層に対してヘルメット着用が努力義務となりました。

努力義務から正式な義務へ変更されたもの

男女雇用機会均等法: 当初は差別的取り扱いが努力義務でしたが、後に法的義務へと変更されました。
自動車の後部座席のシートベルト着用: 当初は努力義務でしたが、後に法的義務へと変更されました。

関連項目

プログラム規定説
* 義務

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