勅旨田

勅旨田（ちょくしでん）について

勅旨田とは、古代日本、特に平安時代において天皇の勅旨に基づき開発された田地のことを指します。この田地は皇室経済の重要な財源とされていました。勅旨田の本格的な設定は、平安時代前期の天長・承和年間（820年代～840年代）に集中しており、この時期の政策が反映されていると考えられています。

勅旨田の成立と背景

勅旨田は、8世紀後期から存在していたものの、実際に本格的に設定されたのは9世紀の初め頃です。当初の810年代には、右大臣の藤原園人が主導するもと、国の政策は有力貴族や寺社への依存度を減らし、特に貧民救済を重視する方向に進められていました。しかし、社会情勢の変化とともに百姓層の階層分化が進み、貧困層が増加したため、律令制に基づく人別課税は破綻しつつありました。

こうした状況において、820年頃に太政官の首班となった藤原冬嗣は、開発奨励政策を通じて社会の変化に対応する必要があると考えました。その結果生まれたのが勅旨田の設定です。これにより国家が管理する正税が開発の資金として使われ、特に空き地や荒れた田地に勅旨田が設けられました。国司がその経営を担当し、収益は不輸租として皇室経済に充てられることになりました。

勅旨田の急増とその影響

天長年間（824年-834年）には勅旨田の設定が急速に増加しましたが、次の承和年間（834年-847年）でも引き続き多くの場所に勅旨田が設けられました。全国各地、例えば下野、武蔵、美濃、摂津、備前、肥前といった地域に具体的な設定の例があり、これらは当時の経済基盤を形成していました。平安時代の文化もこの勅旨田から得られる収入によって支えられていたと考えられています。特に、淳和天皇と仁明天皇の治世においては、学問と宮廷文化が盛んでした。

勅旨田の変遷とその後

しかし、850年に仁明天皇が亡くなると、文徳天皇の治世の下で勅旨田の設定は姿を消します。この変化には、当時の政界のトップであった藤原良房の意図が関わっていると見る向きも多いです。さらに、10世紀初頭には藤原時平が太政官の首班に就任し、902年に発令された延喜の荘園整理令によって勅旨田の新設は禁じられることとなります。以後、勅旨田は次第に姿を消していきました。

ただし、11世紀後期には後三条天皇が再び類似の政策を実施し、皇室の支配下に置かれた田地を「後三条院勅旨田」と呼びました。これは実質的に天皇が直接管理する荘園となり、無認可の荘園を取り締まる法的措置として機能しました。

評価と見解

平安前期の勅旨田に関する評価はさまざまです。一部の学者は、勅旨田の多くが空き地や荒れ田であるため、その意義を認めない立場を取っています。一方で、これは皇室の私的経済基盤としての意味合いを持っていたとする意見や、国家的な開発奨励政策の一環と見る理解もあります。また、勅旨田の廃止が昌泰の変後に行われたことから、藤原氏の皇室勢力に対する抑制策の一部と評価する向きも存在しています。これらの多様な見方が、勅旨田という制度の歴史的重要性を物語っています。

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