勝手にウッドストック

「勝手にウッドストック」は、2002年から2018年までの長きにわたり、日本の夏の終わりを彩った特別な野外音楽イベントです。BAN BAN BAZARが中心となり企画・運営されたこのフェスティバルは、「ミュージシャン自身が心から楽しめる場所を作ろう」という独自のコンセプトのもと、相模湖畔に位置する「みの石滝キャンプ場」で開催されました。

この会場へのアクセスは非常にユニークで、陸路がありません。参加者は、湖畔の船着場からボートに乗って水の上の旅を経てたどり着くという、まるで秘密の場所へ向かうような体験を味わえました。船上では、出演者たちがウェルカム演奏を披露することもあり、会場に到着する前から非日常的な雰囲気に包まれるのが恒例となっていました。

イベントの最大の特徴は、出演者も参加者も同じキャンプサイトで寝泊まりを共にする宿泊型の形式を採用していた点です。チケットには、キャンプ場のバンガローでの宿泊費、会場までの船渡料、そして名物となっていた1食分のカレーライス代が含まれていました。日中のライブ演奏はもちろん、夜にはプログラム終了後も出演者たちが集まり、深夜まで即興のセッションが繰り広げられることも。音楽が文字通り24時間鳴り響くような、熱気と一体感あふれる空間が生まれていました。

会場は、キャンプ場中心部の広場に設営された手作りのメインステージが中心でした。キャンプ場の既存のテーブルなどを活用して作り上げられた素朴なステージで、客席という概念はなく、参加者は各自でゴザや椅子を持ち寄って自由に音楽を楽しんでいました。また、船着場に浮かぶフロートにはサブステージが設けられ、さらに雨天時にはバンガローの下など、様々な場所が即席のライブスペースとなりました。

音楽演奏以外にも、このイベントでは多様な催しが行われました。ウクレレや起き上がり小法師といったユニークなワークショップが開催されたり、会場内には飲食ブースや出演者の物販コーナーに加え、参加者自身が趣向を凝らした個人商店を出店するなど、コミュニティ色の強い賑わいを見せていました。最終日には、チケット代全額キャッシュバックや来年のチケットプレゼントがかかった名物の「じゃんけん大会」が行われ、最後まで盛り上がりを見せました。

このフェスティバルは、バンバンバザールをはじめとする多くの出演者や協力者の献身的な手によって、企画から会場設営まで、まさに手作りで運営されていました。商業的な大規模フェスとは一線を画す、アットホームで温かい雰囲気が、多くの音楽ファンに愛される理由でした。

2002年の第1回は2日間開催でしたが、2003年の第2回以降は毎年9月の3連休を中心に3日間にわたる開催となりました。歴史の中では、2015年には体調不良による出演キャンセルがあった一方で、ピーター・バラカン氏のラジオ番組の出張版が生放送されたり、病気と闘うミュージシャンを応援するための基金が設立されるなど、様々なエピソードが生まれました。

「勝手にウッドストック」は、2018年に開催された第17回をもって、公式にその歴史に幕を下ろしました。しかし、長年にわたり連続出演していたミュージシャンのハッチ・ハッチェル氏が、そのスピリットを受け継ぐ形で「ニューイヤー勝手フェスティバル」と改名し、2019年以降も同じ場所で開催を続けています。このことは、「勝手にウッドストック」が育んだ音楽とコミュニティの絆が、今も生き続けていることを示しています。船でしか行けない特別な場所で生まれたこのユニークな音楽祭は、多くの人々の心に忘れられない記憶を刻みました。

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