勤労者タックスクレジット

英国の勤労者タックスクレジット（WTC）: 低所得者支援策とその課題

勤労者タックスクレジット（Working Tax Credit、WTC）は、英国における低所得者世帯向けの重要な公的扶助制度です。2003年4月に導入され、ミーンズテスト型の給付として、女王陛下の歳入関税庁（HMRC）から支給されます。WTCは、低所得の勤労世帯、子どもを持たない夫婦、子どもを持つ家族など幅広い世帯を対象としており、子どもを扶養する世帯は児童タックスクレジット（CTC）も併せて申請できます。WTCとCTCは同時審査され、親の就労状況や収入に関わらず、CTCの申請は可能です。

導入経緯：福祉から就労への転換

WTC導入の背景には、ブレア政権下の「welfare to work（福祉から就労へ）」という政策があります。この政策は、社会保障制度と税制の統合を進め、低所得者世帯の就労意欲を高めることを目指しました。アメリカ合衆国の勤労所得税額控除（Earned Income Tax Credit、EITC）を参考に、1999年には就労家族税額控除制度と障害者税額控除制度が導入されました。その後、2002年の税額控除法改正を経て、2003年にWTCとCTCという現在の二本柱の制度に移行しました。CTCは有子世帯、WTCは就労世帯をそれぞれ重点的に支援する役割分担となっています。

制度設計と支給方法

WTCとCTCは共にHMRCが執行機関となり、税額控除額は全額給付されます。給付は毎週または4週間ごとに銀行口座に振り込まれ、家族構成や育児費用などの変化を随時反映する仕組みです。ただし、毎期の給付は前年度の所得に基づく仮払い的な要素が強く、年度末に精算が必要です。国民保険番号が申請手続きで使用されます。

申請者はHMRCに申請を行い、暫定的な支給額が計算されます。支給は年度内の4月5日までに継続されますが、年度末には実際の所得を申告する必要があり、過剰支給分は返納、不足分は追加支給されます。

計算方法

WTCとCTCの支給額は、家族構成、収入、就労時間、障害の有無、育児費用などを考慮して計算されます。まず、各要素に対応する金額を合計し、世帯所得に応じて控除額を減額します。控除はまずWTCから、次にCTCから差し引かれます。逓減はWTCで7,455ポンド（2023年時点）、CTCで18,725ポンドから始まり、逓減率は41%です。

具体的な支給要素には、基礎要素、夫婦または片親加算、週30時間以上の労働加算、障害者加算、育児加算などがあります。特に、週30時間以上の就労には追加の給付が設けられています。扶養児童を持つ世帯は、就労時間に関する要件を満たす必要があります。

効果と課題

WTCとCTCは、全国最低賃金制度と併せ、社会的排除の軽減や雇用環境の改善に貢献したと評価されています。しかし、就労促進効果については、期待されたほどではないとする実証研究もあります。一方で、所得補完や子どもの貧困削減に一定の効果があったとする評価もあります。

課題としては、制度の複雑さ、過大・過少給付、低所得者の限界税率の高さが挙げられます。複数の給付制度が複雑に絡み合い、受給者の就労意欲を阻害する可能性があります。2006年度には14億ポンドの過大給付が発生しており、その多くは過誤によるものでした。

ユニバーサルクレジットへの統合

これらの課題に対処するため、2010年の保守党・自由民主党連立政権下で、既存の複数の給付制度を統合するユニバーサルクレジットへの移行が決定されました。当初は2017年完了予定でしたが、ITシステムの問題などにより、2024年9月への延期が決定しています。

まとめ

WTCは英国の低所得者支援において重要な役割を果たしていますが、複雑さや過大・過少給付の問題、ユニバーサルクレジットへの移行遅延など、依然として課題を抱えています。今後も制度の改善や効率化が求められます。

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